アルコール依存症治療における覚書 (全12回)
(本文は精神神経学会誌 123: 500-505, 2021 の転載となります)
はじめに
「お酒が原因で強制入院になりましたが,入院中もお酒を飲み強制退院となりました」。
市中のクリニックで依存症外来を行っているとこうしたケースに出会うことがある。
奇妙なことに,アルコール依存症では「お酒がやめられない」という症状により強制入院となった患者が,その症状が原因で強制退院となりうるのだ。
もちろん個々のケースでさまざまな事情が存在することは理解している。
しかし,これがアルコールではなく自傷行為であったなら,自傷行為が原因で強制入院した患者が,入院中も自傷行為を繰り返し強制退院となる事態は起きえないだろう。
見ようによっては,自傷行為的な飲酒もあるなかで,なぜアルコール依存症ばかりが精神科医療の場で冷遇されてしまうのか。
おそらくその背景には,「やめたい」と話しながらも行動が伴わない患者が,治療者の投影対象となっていることや,
アルコールが合法であるため,いまだ底つき体験を経ていない患者に「断酒の必要性を論理的に説明できない」といった治療者側の防衛機制も働くのだろう。
本稿では「いまだ底つき体験を経ていない患者をいかに治療へ結びつけるか」をテーマに,著者の考えを述べてみたい。(明日へ続きます)
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第417話
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うつ病や不安障害、依存症(ギャンブル依存症 性依存症 クレプトマニア 薬物依存症)や発達障害の治療を受けることも可能です。
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関連記事
依存症の家族、へ向けた書籍が発売されます。
・身近な方が依存症になった際、周囲の方はどのように接したら良いのか
・依存症の治療とは、実際、どのように行われているのか
余すことなく丁寧に解説してあります。
是非とも、お手にとられてみてください。
苫米地英人先生、松本俊彦先生との鼎談につきまして
鼎談の趣旨をまとめておきます。
鼎談テーマ:金融資本主義とアディクション
第24回 日本外来精神医療学会 大会長 山下悠毅(ライフサポートクリニック)
.............
この人が王であるのは、他の人々が彼に対して臣下としてふるまうからにすぎないのに、人々は逆に、この人が王だからこそ自分たちは臣下だと思い込んでしまう。
(『資本論 第1巻』カール・マルクス)
王は一人だけで王になることはできない。自身を「王」として扱う一定数の家来が存在してはじめて、彼は王になることができる。
しかし、ひとたび彼が王となると、家来は自分たちが彼を王にしたとは思わなくなる。自身が家来であるゆえんは、「王によって自身が家来として認められたため」と考え、家来がいてこそ生まれた「王の権威」は、あたかも家来より先に存在していた超越的な存在として認知される。
先の寓話を通してマルクスが資本論で伝えたかったことは何か。それは商品と貨幣の関係性であろう。
元々は、商品同士を交換する「手段」であった貨幣が、時を経ることで、あたかも商品より先立つ超越的な存在として「価値」を帯びることとなる。集団の関係性から生まれた、王や貨幣といった「機能」は実在化し、光り輝く存在として実体化していく。そこでは容易に原因と結果が逆転するだけでなく、手段と目的の入れ替わりも生じていく。
人間自身の行為は、彼らにとって疎遠な、彼に対立する力になり、この力は人間が支配するのではなくて、人間を服従させる――。
(『ドイツ・イデオロギー』カール・マルクス)
マルクスがこう述べた逆転のメカニズムは、まさしくアディクション(依存症)そのものである。
病的賭博を例にとる。
そもそも人は多かれ少なかれ「お金を増やす」ことを目的にギャンブルを開始する。そのため、もしも「お金」が目減りしたならば、自ずと対象への興味は失われていく。しかし、病的賭博ではそうはならない。彼らは、勝った際には「勝っているから」、負けた際には「取り返すため」と理由付けをし、永遠にお金を賭け続けてしまう。
なぜなら、彼らがギャンブルをする目的が「お金を増やすため」ではなく、「お金を賭けるため」と転換しているからだ。彼がギャンブルへお金を賭けるのではなく、ギャンブルが彼にお金を賭けさせている。しかし、その主従の逆転について彼ら(=患者)が自覚することは不可能であり、彼らの人生は間違いなく破滅の淵に追いやられていく。
アルコール依存症も同様である。
当初は、ストレスを減らすために飲んでいたはずのお酒が、いつしか、お酒を飲めないことで強いストレスを感じるようになると、主従が逆転してしまう。
近代の人々は、共産主義が衰退したその歴史から、民主主義を維持するには「資本主義が必要」と信じてきた。しかし、資本主義は成熟すると共に極めて恐ろしい敵と直面することにもなった。その敵の正体。それは、手段が目的化する資本主義の構造そのものであった。
商品の交換を円滑にするための道具であった貨幣が自立すると、商品が貨幣を増殖させるための手段となる。そして、いつしか貨幣自体がデリバティブと呼ばれる投機対象となり、産業資本主義は金融資本主義へと形を変え、アディクトと化した。
そこでは、地道に働いたなら一生得られないような資産を、金融商品を「動かす」だけでまたたくまに手に入れることが可能な状態も作り出した。そんな潮流は、経済社会自体をやがて巨大なカジノへと形を変えていった。
昨今、「何が優秀な働き方で、何が懸命な働き方なのか」、こうした労働概念そのものが破壊されたのも、民主主義を維持する手段であった資本主義が、貨幣価値の増減で民主主義をコントロールするようになった結果といえる。
優秀とされる人材が、新たな価値やイノベーションの創造より、資産運用や時価総額の拡大ばかりにエネルギーを注いだなら、世の中全体が短期的報酬に振り回されていくことは自明だ。やがて、人々が個人の利益だけを最優先するようになったなら、そこで待ち受けているのは、社会的孤立と物や行為にアディクトせざる得ない、いわば「孤人」の大量発生である。
今回の鼎談は、資本主義の抱える社会構造の課題や資本主義社会のアディクト化について、私が尊敬してやまない苫米地英人先生と松本俊彦先生の両氏から教えを乞う場としていきたいと考えている。
参考文献
『アディクションと金融資本主義』鈴木直
『ホモ・デウス』ユヴァル・ノア・ハラリ
『「21世紀の資本論」の問題点』苫米地英人
『マルクス資本論』エンゲルス
『負債論』デヴィット・グレーバー
『依存症の人が「変わる」接し方』山下悠毅
週刊女性より取材を受けました
ギャンブル依存症では「借金を取り返せばギャンブルは止められる」という思考が症状として出現します。
ギャンブル依存症の病理について
依存症の治療で最も大切なことは、患者の病識(自分のどういった言動が病気の症状なのか)を育むことなのだが、
私は、ギャンブル症の初診患者には「痴漢」という疾患の説明から入ることが多い。
チカンをする人の「最高のチカン」とはどんなチカンなのか?
ギャンブル依存症の患者に対し、「チカン行為をする人の性欲は強いか、弱いか」と尋ねたなら、患者は決まって「強いと思う」と答える。しかし、「では性欲の強い男性が女性のお尻を触ったなら、彼らはそこで行動を自制できそうか?」と尋ねると、「難しいと思う」と答える。
チカンを行う男性(以下、痴漢と書く)の性欲は強いのか弱いのか。痴漢は自身でも、その動機について「ムラムラ」を挙げることが多い。しかし、彼らは「射精を目的として」触るわけではないため「ムラムラしたから」は否認といえる。(ムラムラを射精せずに解消しようとすることは、腹ペコを食事せずに解消しようとするくらい無理がある。)
巷には「痴漢は性欲が強い」という解釈から、痴漢に女性ホルモンを投与する治療者がいる。しかし、こうした薬剤で痴漢を止めることはできない。実際、私の外来にも「女性ホルモンを投与され、副作用で胸は大きくなったが行為は止まらない」というケースが多数訪れている。
では痴漢の真の目的は何かというと、答えは「触ってはいけない箇所を触ろうとする」チャレンジ行為への依存である。そもそも、成人男性なら女性の胸をブラジャーの上から触ったところで、「硬くてよく分からない」ことを知っている。尻を触れる場合も同様だ。ジーパンの上から手で触れたところで、分かるのはジーパンの質感である。
にもかかわらず、なぜ痴漢は胸や尻を触ろうとするのかの答えは「女性の胸や尻は社会文化的に触れてはいけない」からである。そのため痴漢がチカン目的で風俗店へ行くこともない。そこ(風俗店)ではそこ(胸や尻)を触っても契約上「良い」ためチャレンジにならないからだ。
度重なる逮捕や、複数回の実刑を経て治療に訪れる痴漢もいる。彼らは自ら「自分では止められない」「自分は意志が弱い」などと話し治療院を訪れるが、
そんな彼らもガラガラの電車内ではチカンをしたことがなく「自分で止められている」ようにも見える。
結局、ガラガラの電車内でチカンをしないのは意志の力によるものではない。「必ず露呈する」という環境因である。
繰り返しになるが痴漢の病理とは「触ってはいけない箇所を触ってはいけない条件下で触ろうとする」チャレンジへの依存なのだ。
痴漢と対比することでギャンブル依存症の本質が見えてくる
「どこからがギャンブル症か」これはよく尋ねられる質問だが、「借りた金でギャンブルをする」「負けを取り返す目的でギャンブルをする」この2つに該当すれば診断してよいだろう。
お金が欲しい人が、勝っている最中にギャンブルを止めることは難しい。なぜなら「勝っているから」である。「儲かるから続ける」これは極めて合理的と言える。しかし、患者は負けこんだ場面でも続ける理由を捏造してしまう。
彼らは勝っていれば「儲かるから」、負けていれば「取り返すため」と、どこまでもギャンブルにふけるのである。結果、いつまで行うのかと言えば「首が回らなくなるまで」がパターンである。彼らの目的は何なのか。もちろん、当の本人は「お金のため」と答える場合が多い。
しかし、彼らに「お金で買える欲しい物」があるわけではなく、それどころか大切な生活費や、時には子供の学費にまで手をつけて(親にとって、これ以上に大切な「お金」はない)ギャンブルを続けてしまう。
ギャンブル症の治療のファーストステップは「どうしても返さなければいけないお金のために…」この否認を崩すことから始まる。私は決まって、「では、あなたの子供が特異な感染症にかかり特効薬の値段が3万円する」「リミットは1カ月でそれを過ぎると命が助からない」こんな状況をイメージしてもらい、「その3万円をどうやって作るか」を考えて貰う。
すると「競馬やパチンコで作ります」と答えるケースは皆無なのである。そこでは誰もが「夜中に交通整理などのアルバイトをする」「持っている服やアクセサリーを売り払う」などと答えるのである。
そこで私が(追い打ちをかける形にはなってしまうのだが)「なぜギャンブルで作ろうとしないのか」と尋ねると、彼らは「是が非でもそのお金を作らなければならないから」となり、先の「どうしても返さなければいけないお金のために…」という否認を壊すことができる。
結局、ギャンブル症の本質は何なのか。繰り返しになるが彼らの目的は金銭欲ではない。(痴漢の目的が性欲でないのと同じである。)答えは「賭けてはいけないお金をかける」チャレンジへの依存なのである。
賭け金が高額であればあるほど「賭けてはいけない」お金であり、光熱費や家賃に該当するお金や、子供の教育資金などはより「賭けてはいけない」お金である。そして最もそこに該当するのが「借りたお金」や「他者の財布やレジなどからくすねたお金」であろう。(そのお金を賭けで失った時点で「犯罪者」になることが確定する。)
治療の初期では「借金を清算したら、またお小遣いの範囲内でギャンブルをしたい」こう答えるケースも少なくない。しかし、彼らの病理が「賭けてはいけないお金をかけたい病」である限り、お小遣いの範囲内でのギャンブルほど退屈なものはない。
事実、彼らはギャンブルで小金を得た際は、とっとと雑に賭けて失う。なぜなら「使っていいお金」でのギャンブルは、痴漢患者が風俗店で相手の同意の元、身体に触れるようなものだからである。
(参考文献:精神科治療学 第38巻増刊号 クレプトマニアの医学的治療について)
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東京都豊島区の心療内科・精神科
・当院はカウンセリングを大切にする治療院です。
・発達障害や依存症の患者さんの社会復帰をサポートしています。
好きな人を諦めるには
・不倫が良くないことは知っているのですが…
・ホストは自分を客としか見てないことは分かってるのですが…
こんな時、私たちはどう考えたらよいのでしょう。
そもそも人は、どんなに素敵な人と出会ってもタイミングやシチュエーションが悪ければ、相手を「理想の人」と思いません。
(親友の婚約者に惚れる人はいませんし、反対に無人島に2人きりなら結ばれる可能性は飛躍的に上がります)
もちろん、この理屈は相手にとっても同様です。
相手の中でのタイミングやシチュエーションが悪ければ、あなたがどんなに魅力的であっても、どれだけ相手に尽くしても、相手はあなたを「理想の人」と思わないのです。
(慰謝料や養育費を支払えなければ相手の幸せより自分の幸せを大切にしますし、ナンバー1ホストを夢見ている人はどんな女性が来ても客にしか見えません)
誰に出会うかではなく、どう出会うか。
あなたが相手を理想化してしまうのも、相手があなたを理想化してくれないのも、2人の「出会い方」が決めているのです。
週刊女性さんに取材を受けました。
新型コロナによって、デリバリー文化ができましたが、社内で飲む、という文化も増えるのでしょうか ?
「飲食代が安価で済むことは良いこと」ではありますが、その裏側にはアルコールやカロリーの過剰摂取のリスクも潜んでいます。
ギャンブル依存症の本質とは
週刊朝日さんから取材を受けました。
痴漢や盗撮、病的窃盗や病的賭博は「行為依存症」とカテゴリーされるのですが、これは平易に言えば「レッツ・チャレンジ病」と表現できます。人は「ビギナーズラック」を体験すると、その当該行為(触る・撮る・盗る・賭ける)に対し「脳が興奮」を覚えるようになります。(脳科学風に言うと、ドパミンの回路ができます。)多くの人は、ギャンブル依存症の人は「お金を当てることで脳を興奮させている」と考えますが、実際は「お金を賭ける」ことで興奮させているのです。ギャンブル依存症の患者さんは、自身がギャンブルに没入する理由として「スリル」という言葉をよく使います。しかし、純粋なスリルを求めるなら「お金」を使わなくとも様々な手段で味わえるはずです。そうではなく、ギャンブル依存症とは「アルコールに依存した人がより濃度の濃いお酒を求める」ように「より賭けてはならないお金を賭けたくなる」疾患なのです。
メディカLIBRARY へ寄稿しました
プラセボのレシピ:第428話
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東京都豊島区の心療内科・精神科
「ライフサポートクリニック」
当院はカウンセリングを大切にする治療院です。
休職中の方の復職支援、発達障害やADHDの精神療法
依存症(ギャンブ・性・窃盗・薬物・アルコール)
を専門医がプログラムを作成し治療しています。
大事なのは「やらない」ではなく「できない」
東京スポーツさんから取材を受けました。
依存症治療における「はじめの一歩」は、
まずは1年、患者さんが意思の力を用いずに、
「問題行動ができない環境を治療者と共に作る」
価値を理解することだと言えるでのす。
アルコール依存症治療における覚書 11
最終稿 アルコール依存症におけるハームリダクションとは
最後は本疾患におけるハームリダクションについて意見を述べ,本稿を終えたいと思う。
薬物依存症の治療では「ハームリダクション」という用語がある。
これは例えば
「覚醒剤依存症では患者同士が注射器の使い回しをするためHIVの感染が蔓延する」
という現状に対し,
「覚醒剤の使用量を今すぐ減らすことは困難だが,注射器が使い回されなければHIVの感染を容易に減らすことができる」
という視点で,
「行政が無料で清潔な注射器を繁華街のトイレなどに置き提供する」
という施策である。
馴染みのない方が聞くと,とんでもない話に聞こえるかもしれないが,
すでに欧州では有効な施策として運用されている。
この話をアルコールに置き換えたなら,どのようになるのか。
いわゆる「減酒」をハームリダクションと呼ぶことは,どこか異なる印象を受ける。
なぜならハームリダクションとは,当該物質の使用量が減らせない際に考えるセカンドベスト(次善策)だからである。
では,アルコール依存症において「何がその次善策にあたるのか」と言うと,
それは「自殺の予防」ではないだろうか。
自殺とアルコールとの関係については精神科医であれば誰もが知るところである。
アルコールによる二次的なうつ病の発症だけでなく,普段は恐ろしくて起こせない行動が,
酩酊することで恐怖心が和らぎ実行されてしまうとの報告がある。
一方で,アルコール依存症の治療は本当に難しい。
医師は患者の酒量が一向に変化しなければ,
「治療者としての無力感」をもたらす相手を憎むリスクを抱えている。
そしてその負の感情に押しつぶされそうになったなら,
正論を振りかざし,転院や入院を勧めてしまうおそれもある。
しかし,このハームリダクションという視点に立ったなら,
医師はその責任感を少し手放しても良いのかもしれない。
なぜなら,たとえ患者の酒量が減らなくとも,
治療者が肩の力を抜くことで,頻回かつサポーティブな診察が継続され患者の自殺が防げたなら,
それはセカンドベストどころかワンオブベストと言えるからである。
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない。
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第424話
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アルコール依存症治療における覚書 10
第10講 一行日記について
アルコール依存症治療における覚書 9
第9講 飲酒意志を上げない
そもそも「飲酒意志はどこにあるのか」というと,
それは患者の内側ではなく外側だと言える。
依存症治療において,渇望を呼び起こす要因を「引き金」と呼ぶが,
先の宇宙旅行の話と同様,
患者は「絶対に飲めない」場面や状況に身をおかれたなら,
当人の飲酒意志が上がることはない。
そのため,ここでの治療目標は「渇望に負けない自分を作る」ではなく
「渇望が出にくい環境を作り続ける」ことである。
次に「飲酒意志を上げない」具体的な治療について紹介する。
患者は診察ごとに「一行日記」と呼ばれる飲酒について記した日記を持参し,
主治医は日記の内容と,患者が「THE・TPO」に基づき設定した「マイルール」の遵守(○・△)について確認する。
スリップの記載(×)があった際は,叱るのではなく,
記載できた事実を称賛し,「マイルール」の見直しや,患者の治療意志を確認する。
患者がスリップした際に,まるで「癌が再発」したかのごとく騒ぎ立てる家族は少なくない。
しかし,問題の本質は「患者がスリップをした後に,飲酒が止まらなくなる」ことであり,
たとえスリップしようとも,そのタイミングで当人が主治医や家族に報告できたならば,
それは治療が失敗したのではないと言える。
そして,もし,この一行日記が中断されたならば,改めて疾病教育を重ねていき,
患者の「断酒意志」を上げることで再開へつなげる必要がある。
(一行日記については、第10講で紹介します)
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第423話
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アルコール依存症治療における覚書 8
第8講 断酒意志を上げる
患者の「断酒意志」を上げるべく,当人に「断酒のメリット」を説く治療者や家族は少なくない。
しかし,その主張が的確であればあるほど,患者は強い不安に襲われ,
患者のなかで上がるのは「断酒意志」ではなく「飲酒意志」となってしまう。
では,どうすれば「断酒意志」が上がるのかと言うと,
「患者が依存症という疾患を徹底的に理解する」
ことにつきるのである。
アルコールの薬理、アルコール依存症の病態や進行、身体合併症ついて
治療関係を壊さないよう緩やかに説明することは大切と言える。※
※ アルコールの薬理、アルコール依存症の病態や進行、身体合併症ついて
① 人はアルコールを少量摂取すると、脳の理性を司る機能が抑制され、失言が増えたり気持ちが大きくなったり、またはストレスが解消されたような気持ちになる。
(脱抑制機能)
② 頻回の飲酒を継続すると身体の適応反応から脱抑制に要する必要な酒量は増えていき二日酔いや泥酔、お酒にまつわる失敗なども発生する。
(耐性や依存の形成)
③ さらに飲酒を継続すると、精神依存(飲酒への渇望や探索行動、飲酒中心思考)や身体依存(不眠や振戦などの離脱症状)が出現する。
(依存症初期)
④ 精神依存や身体依存が生じると、飲酒量やそのタイミングをコントロールする失敗が増えていく。周囲からも飲酒を控えるよう指示も受けてしまう。
(依存症初期~中期)
⑤ やがてアルコールの体内濃度の低下に伴う強い不安や意欲の低下、振戦などの離脱症状が出現し、飲むべきでないタイミングでの飲酒が制御不能となる。
(依存症中期~後期)
⑤ ついには飲酒以外のあらゆる物事(仕事、家族、友人など)に興味を失い、社会的に孤立する。肝障害や膵炎、また栄養失調なども合併し、死に至る。
(依存症後期)
その上で、先に述べた
「人は誰かに依存しなければ自己を定義できない」
「酩酊とはそれが叶わない際の心の痛み止めである」
「やがて誰もが必然的に周囲から嘘つき扱いされてしまう」
といった疾患の本質と恐ろしさを医師が患者に伝えられたなら,
当人の、断酒意志は必ず育まれるのである。
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第422話
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アルコール依存症治療における覚書 7
第七講 治療について考える
患者のなかにはいつだって
「やめたい自分」と「飲みたい自分」
が存在する。
そのため,たとえ何年断酒が続いても,当人の「断酒意志:飲酒意志」は「10:0」なのではなく,
「6:4」や「5.1:4.9」といった状態と言える。
そして,この断酒意志と飲酒意志は互いにシーソーのように連動するとは限らないため,
「12:11」や「2:1」といった表現が適切なときもあるだろう。
「6:4」といった形で断酒していた患者が,職場で酷いパワハラにあったなら,
飲酒意志だけが上がり「6:7」となりスリップするかもしれないし,
財布を落とした際には,
身銭が戻ってくるまでは「6:1」と大幅に飲酒意志のみ下がるかもしれない。
そのため本症の治療は,意識下にある「断酒意志」と「飲酒意志」の各々に,
別々にアプローチすることが有効となる.
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第421話
東京都豊島区の心療内科・精神科:ライフサポートクリニック
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アルコール依存症治療における覚書 6
第六講 嘘つきではなく多重人格
ここで言う多重人格とは,解離性同一性障害のことを指すのではなく
「人の意識下には複数の意志が同時に存在している」
という意味である。
例えば,Aさんなる女性が
「今年のお正月は沖縄へ行きたい」
と考えたとする.しかし,調べてみたところ,その時期の旅行代金が通常の3倍ほどであったため,
「お正月は沖縄以外の場所へ行きたい」
となったとする。
一方,予想していた値段と同じ金額でハワイにも行けることを知ったため
「お正月は沖縄ではなくハワイへ行きたい」となったとする。
しかし,そんな情報ひとつで自分の意見をコロコロと変えるAさんを
「嘘つき」呼ばわりする人はいないであろう。
つまり「お正月は沖縄」と考えていた彼女の意識下には,沖縄以外にも行きたい地域が多数存在しており,
しかし,そこでさまざまな事情が統合され,「沖縄に行きたい」となっていただけなのである。
それこそここで,Aさんに大富豪の恋人ができ,
彼から「お正月に宇宙旅行に行かないか」と誘われ快諾したならば,
彼女の意識下には,「正月は宇宙へ行きたい」という想いも存在したのである。
しかし,彼から誘いを受けるまで,その実現性の乏しさから彼女がその想いに気がつくことはまずないのである.
繰り返しになるが,人は誰もが多重人格である。
例えばこうして読書をしている際にも,意識下には
「喉が渇いた」
「トイレに行きたい」
「あの仕事を片づけねば」
といったさまざまな意志が存在している。
しかし,それらは「意識下における多数決投票」なるもので一位をとるまで自覚されることはない。
では,この話を依存症患者の心理にあてはめてみる。
すると,患者の意識下には本人も気がつかないさまざまな飲酒への意志が常に存在することが理解できるのである。
つまり患者が家族の前で二度と飲まないと発した言葉に嘘はないのである。
しかし,その意識下には
「しばらくやめたらまた飲もう」
「いつかまたお酒とうまくつき合えるはずだ」
などの飲酒意志も存在しており,
時間とともに飲酒で失敗した記憶が薄れると,当人の「断酒意志」も低下していき,
それが意識下にある「飲酒意志」を下回ったタイミングで患者はスリップするのである。
その後はと言うと,どこかのタイミングで家族も気づき当人を問いただすのだが,
その際,患者が飲酒の事実を述べない理由は,患者が嘘つきなのではなく,家族間の構造に由来することは先に述べた通りである。
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第420話
東京都豊島区の心療内科・精神科:ライフサポートクリニック
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アルコール依存症治療における覚書 5
第五講 なぜ患者は嘘をつくのか
「この人は本当に嘘つきです」
「私はこれまで何度も騙されました」
主治医の前で,このように患者を非難する家族は少なくない。
もちろん,家族が憤慨する気持ちもよくわかる。
しかしその際,
「では本人が,正直に飲酒の事実を述べたならどうですか」
と尋ねたなら,
「もちろん怒ります」
と家族は答えるのだ。
つまり,患者もつきたくて嘘をついているのではなく,
「本当のことを言うと叱られる」構造から,
嘘をつかざるをえないのである。
それゆえこうした場面では
「この疾患は複数の再飲酒(スリップ)を経て回復へ向かう」
「スリップの事実を話しても怒られなければ,患者は嘘をつく必要がない」
という実態を家族に伝えておくことは大切となる。
しかし,残念ながら,積年の苦労や恨みからか
「それでも嘘をついたのは事実」
と,なかなか理解を得られないケースもあるため著者は次のような説明も行っている。
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第419話
東京都豊島区の心療内科・精神科:ライフサポートクリニック
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アルコール依存症治療における覚書 4
第四講 入院が決まった家族に対して
患者が入院すると「これで肩の荷が下りた」と話す家族は少なくない。
しかし,アルコール依存症という疾患は
「入院さえすれば回復へつながる」というケースはわずかであり,
第0講で述べた「入院中の飲酒が原因で強制退院」
という事態も起きかねないのである。
これが統合失調症やI型の双極性感情障害であったなら,
「複数回の入院を経て病識を獲得していく」
ケースも存在するだろう。
しかしながらアルコール依存症では,入院回数が増えれば増えるほど,
患者は精神科医療への不信感をつのらせ,家族との関係も悪化してしまうケースは少なくない。
もちろん入院治療を経て,その後も長らく断酒が継続されるケースも存在する.
しかし,それが実現されるには,退院後,断酒会やデイケアへつながったり,相性の良いパートナーや主治医と出会ったり,
入院前は存在すら知らなかった組織や人物とのかかわりが不可欠と言える。
そのため患者の家族には
「患者は断酒している期間のみ社会生活を送ることができる」
「本人の酒量のコントロール能力は回復しない」
「入院はゴールでもスタートでもなく緊急対処」
「自由にお酒を買える退院後が治療の本番」
といった疾患の本質を説明しておかなければ,入院治療への過剰な期待から,
家族が患者の「良い依存」となる日がより遠のいてしまうのである。
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第418話
東京都豊島区の心療内科・精神科:ライフサポートクリニック
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アルコール依存症治療における覚書 3
第三講「美味しいお酒」の正体とは
先ほども少しふれたが,お酒の「味」について話し合うことは病識の獲得に重要と言える。
外来で,飲酒の理由について「美味しいから」と答える患者によく出会う。
しかし,そこで「では,あなたは味を重視した地ビールやワインばかりを飲むのですか」と尋ねたなら,
答えは決まって,質より量を重視した安価なお酒や,度数の高さを売りにしたチューハイである。
また,これは多くの方が誤解しているのだが,アルコールとは本来,不味い飲み物である。
不味いがために,果汁や砂糖を入れたり,冷やしたり炭酸を入れたりするのだ。
なるほど寒天も砂糖と果汁を加えたならばゼリーとなり,水ですら砂糖や炭酸を加えればサイダーとなる。
つまり「美味しいお酒」なるものは本来存在せず,その正体は
「樽に寝かせる」「お米を磨く」
といった手法で,アルコール本来の不味さを隠せた商品なのだ。
世間には,日本酒を口にした際の褒め言葉として「水みたい」と語る方がいるが,
「それであるなら水を飲めばいいのに」
と考える人は著者だけではないだろう。
では,なぜそんなに不味いお酒を,古今東西,人は工夫を凝らして摂取するのかと言うと,
1つ目は,飲酒により脳内でドパミンが放出され,「快」と呼ばれる感情をもたらすからであり,
2つ目は,人は酩酊することで「ストレスが解消できた」と錯覚するからである。
そのため,前者の作用を求める飲酒は合理的であり,
後者の作用を求める飲酒は不合理と呼べるだろう。
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第420話
東京都豊島区の心療内科・精神科:ライフサポートクリニック
当院はカウンセリング治療を大切にするメンタルクリニックです。
うつ病や不安障害、依存症(ギャンブル依存症 性依存症 クレプトマニア 薬物依存症)、発達障害やADHDの治療を受けることも可能です。
アルコール依存症治療における覚書 2
第二講 何をもって「依存症」か
初診時に「どのくらい飲むと依存症なのか」と問われることは少なくない。
著者はかねてより,人の幸せとは,
「大好きな人と大好きなことをすること」「大切な人が大切にしていることを大切にすること」
と考えている。
それゆえ「お酒によって大切な人や大切なことを犠牲にしている」と感じながらも飲酒していたなら,
それは精神の病と言えるだろう。
しかし,「どのくらい飲むと」について,相手の納得する答えを提示することは難しい。
なぜなら人は「自身を変えようとする相手」を強く恐れるからである。
治療ガイドラインや自記式の質問紙を見せたところで,
「医学的にはそうかもしれないが,自分にはあてはまらない」
と反発されてしまうのである。
もっとも,初対面の相手から
「あなたは依存症の診断基準を満たしており治療が必要です」
と言われ,
「わかりました.よろしくお願いします」
と答えたなら,それは依存症ではないかもしれない。
そのため著者は,「どのくらい飲むと」の問いに対して,逆に質問をすることで,そらすようにしている。
例えば,患者がお酒を飲む理由について「ストレス」を挙げていたなら,
「暇なときや嬉しいときは,飲まないのですか」
と尋ね,
「美味しいから」を挙げていたなら,
「美味しくないお酒にお金を払って飲んだことはありませんか」と尋ねるのである。
人はいつだって,自身の問題を「まだ,ギリギリ大丈夫」と考える傾向がある。
そのため,患者が底つきを体験することなく病識を育むには,患者と治療者が一体となり
「自分はなぜ酒を飲むのか」
について哲学的な態度で臨む必要があると言える。
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第419話
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アルコール依存症治療における覚書 1
第一講 「自分が何者であるのか」を知るには
「人はなぜ依存症になるのか」と問われたなら,「人はヒトであると同時に,人間であるから」だと言える。
人間とは「人と人の間」と書くわけだが,これは,人が一人では生きられない存在であることを物語っている。
無人島に一人漂着した場面を想像してみてほしい。
はじめは誰もが衣食住の確保に必死となるだろう。
しかし,仮にそれらをすべて満たせたとしても,満足はできない。
故郷に想いを馳せ,何とか脱出を試みるかもしれないし,遠方に船らしき物体が見えたなら全力で「ヘルプ」と叫ぶのである。
そして,そこでのヘルプの対象は,体ではなく心なのだ。
次に「なぜ人は一人では生きられないのか」を考えてみると,答えは
「人は自分が何者であるのかを考えてしまうから」
「その答えを見つけるには,他者からの評価や他人との比較が欠かせないから」
となる。
つまり,人は自分をヒトとして哺乳類ヒト科,人種は黄色,性別はオスなどと定義できても,
人間としての自分は他者の存在なくして定義できないのである。
人は人とかかわることで,さまざまな感情を手に入れ,人生の意味や意義を見いだす。
本稿ではその際の自己重要感や連帯感,安心や自由といった肯定的な感情をもたらす他者を「良い依存」と呼ぶことにする。
一方,良い依存をもたない人の心は無人島状態であり,そこでの飲酒は疑似的な「良い依存」として機能する。
なぜならアルコールは,人を酩酊させ誇大的な自己重要感や自由といった感情や,鎮静させ連帯感や安心といった感情をもたらすからだ。
つまりアルコール依存とは人ではなく飲酒による自己認識の獲得行為と言えるだろう。
しかし,それは幻想であるため当人の心が救われることはない。
それゆえ,治療の成否は治療者が当人の良い依存になれるか否かにかかっており,
そのためには,まずは患者の話に丁寧に耳を傾け,安心感や自己重要感を与えることが欠かせないのである。
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第418話
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女性自身さんより取材を受けました。
徳光和夫 妻の認知症告白もギャンブル熱が加速…専門家は依存症を指摘
女性自身さんより取材を受けました。
アルコール依存症について。
仕事のストレスから酒量が増える方は多いのですが、
仕事から離れたタイミングで酒量がさらに増えてしまう方も
たくさんいらっしゃいます。
東京スポーツさんより取材を受けました
もちろん、不倫の中にも、
・自身の幸福度が下がると分かっていても止められない
・バレる確立が高いにも関わらず、続けてしまう
といった依存症的と呼べうるものと、
・再婚を本気で考えて行っている(恋愛感情)
・絶対にバレない確信のもとで行っている(反社会的)
の区別が、精神医学的には求められます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b768cd71f2020ded8a1e07c63a7f761713b445c8
なぜ、私たちの決意は脆弱なのか
ダイエットでも禁煙でも新たな語学の習得でも、
なぜこれらが難しく永遠のテーマなのか。
それは、人の心の中にはいつだって、
「変わりたい自分」と「変わりたくない自分」が存在しているからなのです。
そして、この二つの気持ちは独立して存在しているため、
「今度こそ変わりたい」と思った出来事を経験しても、
時間とともにその記憶が薄れると、
再び「変わりたくない自分」に支配されてしまうのです。
プラセボのレシピ:第417話
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夕刊フジさんより取材を受けました
TABLOさんより取材を受けました
東京スポーツさんより取材を受けました
「性依存症」教育講演 ㉜
そして、もう一つの行動療法が「二次ブレーキの設定」です。
これは、本来ブレーキの役割を果たす前頭前野が「引き金が引かれ機能停止を起こすその瞬間に、取るべき行動を決めておく」というものです。
具体例をあげてみますと、いつもパチンコ店の前を迂回して通勤しているギャンブル依存症の方が、出張先でパチンコ店を見つけてしまった際、患者さんは「あっ」と思うわけですが、
その瞬間に「すぐさま後ろを向いて逃げる」とか「家族に電話する」など、「何をするか決めておく」というのです。
馬鹿らしいと思われるかもしれません。
しかし、これは非常に価値があるのです。
なぜなら、多くの依存症の方は、この「あっ」と思った瞬間に取るべき行動を決めておらずに迷うからです。
パチンコ依存症であれば、「とりあえず店内に入ってみよう」とか、痴漢であれば「とりあえず対象のそばへ寄ってみよう」と迷いが生じ、あとはドミノ倒しのように行動が連鎖していき再発するのです。
しかし、事前に引きがねに暴露した際の取るべき行動を決めておけば、淡々とその行動を取ることで再発は防止できるのです。
もちろん練習も大切です。
私は過去に、ギャンブルの患者さんに「パチンコ店を見つけてしまったと仮定してダッシュする練習」をして貰ったこともあります。
社会で生活している限り、引き金が引かれてしまうリスクをゼロにすることはできません。
「ラッシュには絶対に乗らない」と決めていても、人身事故や大雪の影響で社内が混んでしまうことはあるわけです。
であるなら「そのとき何をするのか」を事前に決めておき、練習もしておけばよいのです。
これは、大層なものでなくても構わないのです。
痴漢であれば、最も簡単な二次ブレーキは目をつぶることです。
・少しでも車内が痴漢ができそうな状態になったなら、次の駅に着くまで目をつぶる
・次の駅に着いたら理由の如何に関わらず電車から降りる
こうしたことを決めておくだけで、「ラッシュに乗らないと決めていたが車内が混んでしまった」なんて場面でも、再犯を繰り返さずに済むのです。
私が診てきた患者さんの中で、最も感心させられた二次ブレーキは「防犯ブザー」でした。
その方は「もし混んでしまった時に」と、自身で防犯ブザーを用意され「自分で引く」と決めていたのです。
彼は、かれこれ〇〇回、痴漢で逮捕歴がある方で、刑務所にも数回入っていたのですが、「よく考えられたなあ」と思います。
さすがに防犯ブザー鳴り響いたら、痴漢どころじゃなくなりますからね。
驚くべきことに、彼はその後、本当にブザーを引くことで、二度も自身のピンチを乗り切られたのです。
では、これをもちまして性依存症の教育講演の終わりとさせて頂きます。(了)
プラセボのレシピ:第416話
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うつ病や不安障害に加え、依存症や発達障害の治療を受けることも可能です。
WHOの掲げる「性依存症」とは
2019年6月、WHOは国際疾病分類(ICD10)を30年ぶりに更新。
ICD11を発表しました。
それによると、これまで「性嗜好の障害」とされていた、
・窃触症(痴漢)や窃視症(のぞきや盗撮)、露出症
・フェチズム、小児性愛
・強制わいせつ、強制性交
病態は「パラフィリア障害」と名称が変更され、
・頻回の風俗店利用やポルノやアダルの閲覧
・過度なマスターベーションや複数の性的パートナを持つ、
といった性の衝動の過剰病態を「強迫的性行動症」と新たに名称の新設をしています。
性依存症とは上記のパラフィリア障害と強迫的性行動症のことを指すのですが、どちらも専門治療(認知行動療法や対人関係療法)が必要であり、
ライフサポートクリニックでは、専門医による性依存症の認知行動療法や対人関係療法を保険診療で行っています。
上記症状でお困りの方は、まずはお気軽にお問い合わせください。
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うつ病や不安障害に加え、依存症(性・ギャンブル・窃盗・薬物)や、
発達障害の治療を受けることも可能です。
「性依存症」教育講演 ㉛
ここからは、私が考案した行動療法「THE TPO」について説明をしてみます。
依存症とは「意志が弱い」のではなく、条件がそろう(引き金が引かれる)と逆らえない病気でした。
覚醒剤依存症であれば目の前に覚せい剤があれば、ギャンブル依存所であればお金を所持した状態でパチンコ店を発見したなら、
どんなに「二度としない」と決めておいても役に立たず、逮捕や破産への恐怖も吹き飛んでしまうのです。
であるならば、依存症の患者さんがすべきことは、
「自身の引き金を特定し、それが引かれない(引けない)よう前もって潰しておく」
ことなのです。
私は引き金を、以下の6種類に分類し(THE TPO と名づけています)、全ての患者さんがノートに整理をしています。
T(ツール) :道具
H(ヒューマン ):人物
E(エモーション):感情
T(タイム) :時間
P(プレイス) :場所
O(アザー) :その他
Tは、問題行動をするための「道具や手段」です。
・お酒やギャンブルなら現金
・盗撮ならスマホやカメラ
・薬物なら売人の連絡先
・窃盗ならチャックのないトートバッグ
・痴漢なら素手
などで、ネットの掲示板などで薬物を購入したり、オンラインで馬券を購入していた方は、パソコンやスマホも「T」となります。
Hは、問題行動をする際の「対象や仲間など」です。
・アルコールや薬物なら使用する仲間や売人
・盗撮ならスカートの女性
・ギャンブルなら競馬仲間
・露出や窃盗なら一人ぼっち
などで、「親やパートーナと喧嘩をするとやってしまう」なんて方は、その方も「H」となります。
Eは、行為を誘発する感情(気分)です。
これらは直接的に避けのは困難ですが、
・怒りや不安
・孤独や寂しさ
・退屈
・疲労感
などで、上記の「H(ヒューマン)」とも関連があります。
Tは、問題行動を行っていた時間帯です。
・痴漢ならラッシュアワー
・アルコールなら、仕事が終わったら
・ギャンブルなら休日のお昼から
などとなります。依存症の方は「忙しいとその反動で(問題行動を)やってしまう」なんて方は多いのですが、「暇が最大のリスク」という方も多いです。
Pは、問題行動に繋がる場所です。
・痴漢なら満員電車
・盗撮なら書店やエスカレーター
・窃盗ならスーパーやドラッグストア
・ギャンブルならパチンコ店や馬券売り場
などで、盗撮なら「専用のカメラ」を販売しているお店(ネット上含む)」なども該当します。
Oは、上記以外でその方固有の引き金があれば書き出します。
痴漢や盗撮であれば「そうしたアダルトコンテンツを見ると、やりたくなる」
ギャンブルであれば関連するユーチューブの動画やパチスロの雑誌が、
アルコール依存症の方であれば、「ノンアルコールビールが引き金になる」なんてケースは多いです。
Oの「アザー」に関してもう少し説明をしますと、
問題行動が痴漢の方は、なぜ「痴漢系のアダルトを見ない」が大切なのか。
これは、人は依存対象に関する疑似的な行為や物質でも脳内でドーパミンが分泌されてしまうからです。
ギャンブル依存症の治療を進めていくと、
「YouTubeでパチスロの動画を見ていれば代替えになります」
「パチンコ店に入って、他人が打っているのを見れば満足できたので、この戦法でいきます」
なんて話す方は少なくないのですが、それで成功する方はいないのです。
なぜなら、ドーパミンの耐性により、疑似的な行動だけではやがて出なくなってしまうからです。
ノンアルコールビールも例外ではありません。
「最近のは美味しいからこれでいきます」
なんてアルコール依存症でない方でも話しますが、多くの方が時間が経つと元のビールに戻ってしまうのです。
このように、私の治療では全ての患者さんに「THE.TPO」設定して貰い、一生涯その引き金が引かずに済むような「行動のルール」を設定するのです。
「一生涯」なんて言うと、大げさに聞こえるかもしれません。
しかし、アルコールでも痴漢でもギャンブルでも、脳内にできた依存症の回路を消すことはできません。
依存症になった脳をなる前の脳に戻すことはできないのです。
ただし、引き金さえ引かれなければ問題行動の再発や再犯は防げるのです。
「二度としない」ではなく「生涯、引き金を潰し続ける」
これこそが依存症から人生を回復へと導くキーワードなのです。
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第415話
東京都豊島区の心療内科・精神科:ライフサポートクリニック
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うつ病や不安障害に加え、依存症や発達障害の治療を受けることも可能です。
「性依存症」教育講演 ㉚
そして、補足となるのですが、
「ネットで仲間を募って集団で痴漢をする」
「夜間、女性を物色し強姦を繰り返す」
といったケースを私は性依存症と呼んでおりません。
なぜなら、このような反社会的な行動を繰り返すケースでは、依存症に特徴とされる「否認」や「強い後悔」といった症状がみられないからです。
あとは、女性に多いケースとして、
自分では「私はギャンブル依存症です」と思われている方も、よくよくお話を聞いてみると、「幼少期(思春期)より生き辛さを抱えられていた」なんて方がいらっしゃいます。
その場合、症状から「ギャンブル依存症」という診断は下されたとしても、問題行動の背景にあるのは
「自分が何者であるかが分からない」という自己空虚感」
「大切な人から見捨てられるてしまうのでは」という強い不安
「プライドと劣等感がもたらす激しい怒りや寂しさ」
などであるため、治療は物質依存症に準ずる「居場所の提供」や「生きがいの創出」などが大切となります。
そろそろ本講演も終わりとなるのですが、では「痴漢の治療は何か」というと、一つ目は病気に対する正確な知識と理解でした。
「痴漢はばれないように始まり、必ずバレるまでエスカレートする」
という事実をドーパミンの耐性や感作と絡めて理解するのです。
そして、もう一つは、できてしまった依存症の脳内回路を刺激しない「仕組み作り(行動療法)」となります。
具体的には、
ギャンブル依存症であれば「現金を持たない」
盗撮を止められない方であれば「カメラを持たない」
といった具合です。
心理学ではこうした問題行動に結びつく要因を「引き金」と呼ぶのですが、私はこれを「T・H・E・T・P・O」という項目に整理して治療をしています。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第414話
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では、最後に治療の話をして本講演を終えたいと思います。
物質依存症と行為依存症では、原因が異なるため治療も少なからず異なります。
物質依存症の原因は「時間×量」でした。
そのため治療は「患者さんが該当物質を長らく使い続けることになった背景」を探ることが欠かせません。
「相談相手がいない」
「人に頼るのが苦手」
「職場でのスキル不足」
「知的障害や発達障害を抱えていた」
このように、原因は人それぞれですが、まずは治療者が「患者さんの生い立ちや性格」を詳細に聞き取り、相手を受容してあげることが欠かせないのです。
一方、プロセス依存症の原因は「ビギナーズラック」でした。
つまり、痴漢でもギャンブルでも、依存症になってしまった原因と「生い立ちやストレス」などは関係が薄いのです。
もちろん治療者が患者さんを理解するためには、こうした情報は欠かせません。
しかし、
「過去を遡って、問題行動の原因を探る」
「幼少体験を語ることで再犯を防ぐ」
「ミーティングでストレスを吐き出す」
なんてことをしても、再犯予防にはあまり繋がらないのです。
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第413話
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ちなみに、社会的に健全とされている代表的な行為の依存は「釣り」と「登山」です。
私の親戚にもおりますが、釣り好きな方は本当に釣りが大好きです。
高い道具を揃えて朝早く家を出て、そのための車まで買う人もいます。
では、彼らは「何を目的に」釣りへ出かけるのでしょう。
もちろん、その答えは「食料としての魚」ではありません。
なぜなら、それであるなら魚市場へでも行き買えばよいからです。
では、彼らは何のために魚を釣っているのか。
もちろん、その答えは、
「釣れるかどうかのドキドキ感を味わうため」
なのです。
登山だって同様です。
険しい雪山を登ったり、ものすごい崖をザイルにぶら下がって登ったり。
なぜ、彼らはそんな危険を冒してまで登るのかというと、それは「登山という行為」に依存しているからなのです。
どんなに本人が
「頂上の景色が最高で」
と話されても、ヘリコプターで頂上へ向かうことなど、全く望まないでしょうし、
「なぜ、命をかけてまで登るのか」
と尋ねたところで、
「そこに山があるから」
といった、文学的な表現でしか答えられないわけです。
もちろん、私は「釣り」や「登山」を否定したいわけではありません。
ただ本音を言うと、やはり冒険家と呼ばれる方は少し心配です。
なぜなら彼らがドーパミンを出し続けるためには、いつだって「前回よりも高いリスク」が必要とされるからです。
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第412話
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「性依存症」教育講演 ㉗
このように、痴漢でも盗撮でも、彼らも普段は「二度としない」「次にしたら大変なことになる」と考えています。
しかし「できそう」とか「やれるかも」と思った瞬間、回路は活性化し、私たちがアルコールを飲んだ時と同じかそれ以上に、理性が遮断されてしまうのです。
ここまでを、まとめてみますと、
・痴漢でもギャンブルでも、ビギナーズラックによりドーパミンの回路が形成される。
・ドーパミンの耐性から、行動は必ずエスカレートしてしまう。
・意志の力で我慢をしても、「久々の1回」で感作が生じ、再び常習化されてしまう。
・どんなに「二度としない」と誓っても、特定の場面で理性は停止し、再犯してしまう。
統計を取りましたところ、私の外来へ痴漢を治療しに訪れた患者さんの二割弱の方が「故意でなく、偶然の接触によって痴漢を繰り返すようになった」方でした。
「荷物を持っていた手の甲が、偶然、相手のお尻に触れて」
なんて方はその典型ですが、他にも
「つり革を持っていたら、たまたま肘が女性の胸に触れて」
「座席に座っていたところ、隣の女性の髪の毛がいい匂いで」
なんて方もいます。
こうした経験が「ビギナーズラック」として本人に認知されると、行為依存症という病気になってしまうのです。
そして、初めは「手の甲で軽く触れていた」方がいつしか耐性により「手の平で」となり、
最後は「下着の中に手を入れて逮捕」というケースはパターンなのです。
つまり痴漢は、スタートが故意であれ偶然であれ、いつだって
「バレないように始まって、必ずばれるまでエスカレート」
してしまうのです。
そして、これは逮捕などを機に止まっていた方が再逮捕となる経緯も同様なのです。(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第411話
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「性依存症」教育講演 ㉖
なかなか信じがたい話かもしれません。
しかし、これとよく似た現象は、私たちがお酒飲んで酔った際にしばしば起きているのです。
「酔って卑猥な発言をしてしまった」
「秘密をばらしてしまった」
なんて方は少なからずおられるわけですが、なぜ、こうしたことは起きてしまうのか。
これは、脳の画像検査でも証明されているのですが、お酒を飲むと、前頭前野の血流が低下するからなのです。
「お酒を飲むとラーメンが食べたくなる」
なんて話す方は少なくありません。
しかし、その発言だって実は否認であり、彼らは「酔うと食べたくなる」のではなく、本当は「いつもラーメンが食べたい」のです。
だた、酔っていないときは前頭前野に血流が満たされているため、「今は仕事中だ」とか、「さっきご飯を食べたばかりだ」とブレーキが機能しているのです。
しかし、そんな方がお酒を飲むと、先ほどあんなに飲み食いしたにも関わらず
「よし、次はラーメン」
となり、翌日になって食べ過ぎたことを後悔する経験を繰り返してしまうのです。
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第410話
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「性依存症」教育講演 ㉕
こちらのスライドを見て頂きたいいのですが、
ここからは「心と脳」を分けながら、依存症の説明を続けたいと思います。
もちろん、心も脳も「脳みそ」の中にあるわけですが、ここでは心を「全動物が持つ本能」と定義します。
具体的には「記憶の海馬」や「好き嫌いを決める扁桃体」といった部位で、これらは全動物に備わっています。
猫であれば、海馬の働きから自分をイジメる存在から逃げるようになりますし、偏桃体の働きから鰹節を好むのです。
そして猫でも人でも、これらは「欲動のアクセル」として機能しているのです。
「異性がいたら抱きつきたい」とか、「美味しい餌をまた食べたい」といった具合です。
そして、これは仮説ですが、行為依存症の原因となるビギナーズラックが起きると、おそらくこの「心」に「ドーパミンの回路」が形成されてしまうのです。
一方、脳とは人間だけが持つ「理性や人格、判断を下す司令塔」と定義します。
脳は前頭前野と呼ばれる場所にあり、こちらは「欲動のブレーキ」として働きます。
そして、人はこの脳の機能によって、「異性と接触を持ちたい」なんて場面でも、私達はいきなり相手に抱きつくのではなく、挨拶から始めたり、食事に誘ったりといった理性的な行動が取れるのです。
しかし、依存症では、問題行動が「できそう」とか「やれそう」と思った瞬間、心にできたドーパミンの回路が活性化するのです。
すると前頭前野の血流が回路の方へ流れこみ、機能が停止してしまう。
だから「二度としない」と何度誓おうとも、依存症の方は問題行動を繰り返してしまうのです。
つまり、依存症とは「意思が弱い」のではなく、
「やれそう」と感じた場面で「意思が働かなくなってしまった」病気なのです。
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第409話
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「性依存症」教育講演 ㉔
ギャンブル依存症の人は、仮に大金を得たとしても再びそのお金を賭けてしまう。
なぜなら彼らの関心事は、「当たるかどうか」というスリルや興奮を得ることであり、痴漢もそれと同じなのです。
痴漢をした人に対して、
「何で、やっていい事と悪いことの区別がつかないのか」
と叱りつける方がいるのですが、それは全く無意味と言えます。
なぜなら痴漢をする人は、「痴漢は悪いこと」と分かっているからこそ、その過程でスリルを味わえるのです。
盗撮も同様です。
「そんなに撮りたければ、お金を払ってで撮らせて貰えばいいのに」
「そんなに下着の写真が好きならば、ネットで探せば大量に出てくるのに」
と興味のない方は考えます。
しかし、盗撮をする人からすると、それでは意味がないのです。
なぜなら、ギャンブルでも痴漢でも盗撮でも、(露出でも覗きでも窃盗でも)
行為依存症の方が欲しているのは「結果」ではなく「成功と失敗の狭間に存在するスリル」なのです。
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第407話
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性依存症」教育講演 ㉓
一方で、そんなに痴漢の衝動が抑えられないのなら、
「では、ガラガラの電車でも痴漢を繰り返してきたのですか?」
と尋ねると、今度は誰もが
「ガラガラの電車内でしたことは一度もありません」
と答えるのです。
つまり、こうした話から何が分かるのかと言うと、彼らは
「絶対に成功する風俗や、絶対に失敗するガラガラの電車では、痴漢をしようともしたいとも思わない」
ということなのです。
あくまで彼らが触りたいのは
「できるかどうかの満員電車の中でのみ」
つまり彼らにとっての痴漢とはギャンブル行為であり、
これこそが痴漢行為の本質なのです。
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第406話
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性依存症」教育講演 ㉒
では、ようやくここから「性依存症(痴漢行為)」の話へと入ります。
私の外来には、
「これまで痴漢で4回、示談をしてきた」
「痴漢で刑務所に2回も入った」
といった方がこのぼたくさん受診されています。
示談金の相場は事件の内容にもよりますが、だいたい30~50万円くらい。
社会的に地位の高い方だと「200万円払った」なんて方もいました。
一体、なぜ彼らはそんなリスクを冒してまで痴漢をするのでしょう。
「そんなに触りたいのであれば風俗店で触ればいいのに」
などと思われる方もいるかと思います。
実際、私も初診の際に「あえて」そうした質問をすることがあります。
すると多くの方が
「自分でもそう考え風俗店で触ったのですが、何かが違って」
と答えるのです。
まあ、違ったから痴漢行為を繰り返してきたわけですが。
あとは「あ、その手がありましたね」なんて方もいるのです。
「今日はいいことが聞けました。今後、痴漢がしたくなったら風俗へ行きます」
と、これまで何度も刑務所へ入ってきた方がサラッと言うのです。
こんな発言を聞いたなら、みなさんなはどう思われるでしょうか。
「それ、本気でおっしゃっているのですか」
と、言いたくなりますよね。
しかし、日々、外来で診察をしていると
「そうか、風俗でやれば良かったんですね」
といった発言をする方は、何人もいるのです。
つまり、これもまた「彼らが嘘をついている」のではなく「否認」と呼ばれる症状なのです。
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第405話
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当院は、カウンセリング治療を大切にするメンタルクリニックです。うつ病や不安障害に加えて、依存症や発達障害の治療を受けることも可能です。
「性依存症」教育講演 ㉑
もちろん、ビギナーズラックを当てたからといって全ての方が依存症になるわけではありません。
しかし、「悲惨な体験」を被ることでPTSDを発症され、長期間にわたりその記憶に苦しめられる方がいる様に、
突然「大当たり」を体験することで、ギャンブル依存症を発症してしまい、「お金を賭ける」という行為に執拗に囚われてしまう方がいるのです。
恥ずかしながら私自身、精神科医になってしばらくの間は「行為依存症」という病気の存在すら知りませんでした。
しかし、よくよく考えてみると、実はこれとよく似た現象は、私たちの身の回りでも起きているのです。
「昔は〇〇が嫌いだったけど、××をきっかけに〇〇が大好きになった」なんて話はその典型で、
「キュウリが大の苦手で、匂いすら耐えられない」
なんて方が、たまたま棒棒鶏(バンバンジー)を食べ
「美味しい!」
と感じると、その後は棒棒鶏はもちろん、キュウリという野菜自体をも「美味しい」と感じるようになったり、
「サザンオールスターズの良さが分からない」
なんて方が、同僚がカラオケでサザンを歌った際に
「あれ、この曲すごくいい!」
と感じると「それを機にサザンが好きになってしまった」といった話はいたる所にあるはずです。
ネガティブな価値観が突然ポジティブな方向へと大きく揺れ動かされると、脳内に消去することが困難な「依存症回路」なるものが形成されてしまうのです。
「どんな人がギャンブル依存症になりやすいのですか」
という質問をよく受けるのですが、この理屈で言うと
「まさか自分が当たりっこない」
という思いが強い人ほどリスクは高そうですし、事実、診察をしていても、それはその通りなのです。
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第404話
東京都豊島区にある心療内科・精神科
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「性依存症」教育講演 ⑳
では、なぜ行為依存症になってしまう人がいるのか。
前回物質依存症は「時間×量でなる」と書きましたが、
結論から言うと行為依存症の原因はビギナーズラックです。
「最初にドカンと当たったから」、ただ、それだけなのです。
私はこれまで「競馬は止められないけど、競輪は止めている」なんて方とたくさん会ってきましたが、その理由について誰もが「競輪は、つまらなかったから」と話すのです。
しかし、ギャンブルにおいて「つまらなかった」なんて理由は有って無いようなもので、ようはそれで「勝てなかった」「当たらなかった」だけなのです。
誰だって(それこそ依存症になられてしまう方であっても)、もし初回で数万円負け、二回目でも数万円負けていたなら、「ギャンブルなんてくだらない」とか「二度とするもんか」という考えになっていたのです。
しかし、不幸にも「初回で」または「大きく負ける前に」ドカンと当たると、人はその記憶に縛られて「○○にお金を賭ける」といった行為が、人生のあらゆる行為より価値を帯びてしまうのです。
ちろん、ビギナーズラックを当てたからといって全ての方が依存症になるわけではありません。
しかし、突然「悲惨な体験」を被ることでPTSDを発症されてしまう方がいる様に、
突然「大きな当たり」を体験することでギャンブル依存症を発症してしまい「お金を賭ける」という行為に病的に囚われてしまう方がいるのです。
プラセボのレシピ:第403話
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「性依存症」教育講演 ⑲
前回「人は『できるかもしれない』と感じると脳内でドーパミンが分泌される」と話しましたが、
これと同じ流れで、「自分は選ばれた」「自分だけが見つけられた」といった状態でも、ドーパミンは分泌されます。
ビンゴゲームで、初めは無関心であった人も、手持ちのカードが「ダブルリーチ」なんて状態になると、急に気分は高揚するのです。
あとは、バーゲンセールで「〇〇%引き」なんて値札を見つけた時も同様です。
ドーパミンが分泌され気分が高揚すると、人は理性的な行動を取れなくなってしまうのです。
このように、
「自分だけができる」
「自分だけが選ばれた」
といった場面で過剰なドーパミンが放出され、衝動を抑えられなくなっていしまうのが「行為依存症」という病気なのです。
では、なぜ行為依存症になってしまう人がいるのでしょう。(次回に続く)
プラセボのレシピ:第402話
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「性依存症」教育講演 ⑱
(前回の続きを書いてきます)
こうなると「ちょっと、自分はやばいのかもしれない」といった表情になる方は多いのですが、一方で「ここに居たら、競馬を止めさせられる」といった不安から、
「じゃあ、家を買う」とか「子供の教育資金に回す」などと話しだすのです。
ただ5億円もあれば、それこそ数百万円の借金など紙屑みたいなものですし、極端な使い方をしなければ、計算上、お金は必ず余るのです。
そのため、「では1億円は余ると仮定して、余った1億円は、被災地に寄付でもされますか」とお尋ねすると、
「いや、寄付するぐらいだったら、ギャンブルに使いたいかな」と、これまたお決まりの答えが返ってくるのです。
まあ、ギャンブル依存症の方が言いそうな発言ではありますが、しかし、この発言こそが「彼が病気である」ことを端的に表しているのです。
なぜなら彼は「自分はお金のために競馬をしている」と話しながらも「一億円が余ったら、そのお金で競馬がしたい」と話しているからです。
これは例えると「彼女が欲しいので合コンへ行く」と話す人が、「彼女ができた後も合コンに行っている」構図と同じなわけです。
そんな事実を知ったなら、誰だって「嘘つき」と突っ込みたくなりますよね。
ギャンブル依存症の方もこれと同じなのです。
つまり、彼らの「お金のため」という発言は本心ではなく、否認という症状なのです。では彼らは「何のため」にギャンブルをしているのか。
答えは、「ギャンブルするためにギャンブルしている」のです。
なんだか変な表現ですが、ようするに、彼は「お金を賭ける」「お金を投入する」という行為やプロセスに依存しているのです。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第401話
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「性依存症」教育講演 ⑰
行為依存症の動機づけ面接
行為依存症には痴漢、盗撮、露出、覗(のぞ)き、病的賭博、病的窃盗といったものがあります。
ただし、痴漢などの性犯罪や窃盗行為はそれ自体が犯罪であるため、それらを「病気」と説明してもなかなか理解が得られません。
そこで、私はいつも患者さんやそのご家族に対しては、同じ行為依存症である病的賭博(以下:ギャンブル依存症)について説明を行い、そこから同じカテゴリーである痴漢の理解へと繋げています。
ギャンブル依存症は、年齢にもよりますが、平均500万円前後の借金を抱えた状態で、私の外来を訪れます。
しかし、彼らが全員「自分は病気である」と認識しているかというと、そうではありません。
先日も「競馬で借金を作ってしまい、実家から200万円、嫁の実家からは300万円埋めて貰った」という方が奥様と来院されたのですが、彼は待合室で「スマホ用の競馬サイト」を見ていたのです。
また、診察の順番となりお呼びすると、私の顔を見るや否や「呼ぶのが遅い」「待たせすぎだ」などと怒り出す方や、「なんで俺が精神科なんだ。ふざけんな」などと大声をあげる方もいるのです。
これが同じ行為依存症でも、痴漢や盗撮ですと治療への導入はスムーズにいくことが多いのです。
なぜなら、彼らの多くは逮捕歴があり裁判なども控えているため、弁護士からも治療を勧められているからです。
しかし、これが合法のギャンブルとなると難しいのです。
もちろん、私だって怒鳴られたり大声を上げられたりしたら「そうでしたか。では、どうぞお帰りください」と言いたくもなります。
しかし、やっとの思いで連れて来られたご家族のことを考えると、むげにもできないわけです。
そこで「本日は、○〇さんの借金のことで奥さまが心配されていたので、私が診察をご案内しました」と前置きし、
「ところで、○○さんは今後、競馬についてどうなさるおつもりですか」
と尋ねます。
すると、大抵は「今後は小遣いの範囲内でやるから心配ない」「取り返したらやめるので、それまでは続ける」といった答えが返ってくるのです。
そこで私が「『勝てるから』とか、『取り返したら』ということは、お金のために競馬をされているのですね」と尋ねると、「まあ、そうだな」となるのです。
そして、そうこうしている内に患者さんはしびれを切らせ「もう、いいから帰らせろ」とか「俺は病気でもなんでもない」という展開になるのです。
ここまで来ると、動機づけまではあと一息です。
私が「分かりました。では、今から一つだけ質問をしますので、もし答えることができたなら、どうぞお帰りください」と伝えると、患者さんは「分かった」とか「早くしろ」と必ずこの提案に乗ってくるのです。
そこで私は「○○さんは競馬をされている理由を『お金のため』とおっしゃいましたが、では、もし宝くじで5億円当たったなら、何に使いますか」と尋ねるのです。
すると、患者さんは必ず「えっ、……」と言葉につまり「分かんねえ」とか「考えたこともない」と答えるのです。
私が「でも、先ほど○○さんは競馬を『お金のため』とおっしゃっていたのに、お金が入った際の使い道が分からのはおかしくないですか」と続けると、「だから、分かんねえーよ」となり、
「では、お約束した通り、まだ帰れませんね」という展開になるのです。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第400話
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「性依存症」教育講演 ⑯
前置きが長くなりましたが「物質依存症」の説明を踏まえて「行為依存症」の説明に入りたいと思います。
読者の皆さんに質問をさせて欲しいのですが、「痴漢をする人の性欲は強い」のでしょうか。
「強いか弱いか」と聞かれたなら、なんか「強そう」な印象はあると思います。
しかし、もしも「強い」と思われたなら
性欲の強い男性が女性のお尻を触ったなら、彼らはそこで自身の行動をストップできるのか ?
と問われたならいかがでしょうか。
おそらく、もしも彼らの性欲が「強い」のであるなら、触るだけでは済まないはずなのです。
痴漢した動機について「性欲」を挙げる加害者の方は少なくありません。
しかし、これも否認という症状なのです。
なぜなら痴漢行為をする方の多くは、「射精を目的として」痴漢をするわけではないからです。
巷には「痴漢や盗撮は性欲が強い人が行なう」という考えのもと、女性ホルモンを投与する治療者もいるようですが、もちろんこうした薬剤で痴漢を止めることはできません。
なぜなら繰り返しになりますが、痴漢と性欲の強弱は無関係だからです。
実際、私の外来には
「女性ホルモンを投与され、副作用で胸は大きくなったが、痴漢は止まらない」
という方が何人も訪れているのです。
ただ、中には「性欲も絡んでいる」という方がいるのも事実です。
具体的には、
「過去にしてきた痴漢行為を思い出してマスターベーションをする」
「自身で撮った盗撮画像を用いてマスターベーションする」
といった具合です。
しかし、そのような方は極少数で、患者さん全体では一割未満だと言えるのです。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第399話
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「バイキング」さんにコメントを寄稿しました
テレビ局のディレクターさんより、
「ピエール滝さんの、早期復帰のメリットとデメリットを教えてください」
と質問を受けたのですが、
早期復帰はご本人側の事情からはメリットしかなく、
一方でデメリットは社会の悪意からもたらされる
という旨をお伝えました。
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「性依存症」教育講演 ⑮
続・ドーパミンについての補足
そしてドーパミンの最後の説明になるのですが、
ドーパミンは、自分のしたいことが「できるかも」と感じた際にも脳内で放出されます。
小学生時代の遠足を思い起こしてください。
皆さんは「どんなタイミング」が一番ワクワクしたでしょうか。
目的地の「日光東照宮」や「華厳の滝」に到着したときでしょうか?
そうではありませんよね。
おそらく、多くの方が遠足の前日の「明日は遠足!」
こんな時が最もワクワクした気持ちとなり、おやつの買い出しや翌日の準備に取り組んでいたはずなのです。
そして、この時の「やる気のスイッチ」こそがドーパミンの作用なのです。
「できるかも!」「やれそうだ!」
こうした期待が高まるとドーパミンは脳内で分泌され、人をその行動に駆り立てるのです。
覚せい剤で何度も刑務所に入った方の話によると、多くの方が刑務所にいる間は「もう手を出さない」と誓うそうです。
しかし、それは刑務所内で不自由を強いられているからではなく、刑務所内では覚せい剤を「やる術」がないため(「できそう」と思えないため)ドーパミンが分泌されないだけなのです。
しかし、そんな方が出所して「薬が手に入る」と感じると、とたんにドーパミンは分泌され、再び薬物に手を染めてしまうのです。
では、こうした物質依存症の理解を次回からは行為依存症である「痴漢」や「盗撮」について解説をしていきます。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第398話
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「性依存症」教育講演 ⑭
ドーパミンについての補足
では、あともう二つほど「ドーパミンが分泌される場面」を説明させてください。
医療ドラマなどの「瀕死の患者さん運ばれてきた」なんてシーンで、「カンフル打って」とか「アドレナリン持ってこい」なんてセリフを聞かれたことはあるでしょうか。
実は、あれらは全てドーパミン系の薬剤で、救命救急の現場ではドーパミンを「強心剤」や「昇圧剤」として用いています。
あとは市販の栄養ドリンクやエナジードリンクも同様で、あの中に含まれるカフェインがドーパミンの分泌を促すことで心拍数や体温が上昇し、「元気になった」気がするのです。
つまりドーパミンとは「快」という感情をもたらすだけでなく、ストレスがかかった際に分泌される「ストレス対抗物質」でもあるのです。
急な残業を命じられ「嫌だなー」「なんで自分が」と思っても、脳内でドーパミンが分泌されることで、「仕方がない」「さっさと終わらすか」といったやる気のスイッチが入るのです。
ところが、日常的に薬物やタバコ、エナジードリンクなどを用いてドーパミンを出していると、ストレスが生じた場面でドーパミンが出なくなるのです。
つまり喫煙者は、「ストレスが多いのでタバコを吸う」のではなく、「タバコを吸っているためにストレスに弱い」可能性もあるのです。
実際、私も過去にタバコを吸っていた時は、極めて弱いメンタルだったと思います。
一人で道を歩いていても、横断歩道が赤信号なだけで「チッ」となり、タバコに火をつけていました。
ようは、赤信号すら待てないわけです。
車の運転中も、大渋滞ならまだしも、少し混んだだけでタバコに手が伸びてしまうのです。
こうなると、もう完全に悪循環ですよね。
「ストレスを感じるとタバコを吸い、タバコを吸えば吸うほどストレスに弱くなる」
これは本当に怖い話です。
誤解しないで頂きたいのですが、私は「だからタバコはやめましょう」と言いたいのではありません。
タバコでも薬物でも、もし止めたいのであれば、このような脳科学を理解することが欠かせないことを理解して頂きたいのです。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第398話
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「性依存症」教育講演 ⑬
リバウンドを「依存症」の視点から解説します
リバウンドというダイエット用語を聞いたことはあるでしょうか。
これは、「食事制限でいったんは痩せた体重が、ダイエット以前より増えてしまう現象ですが、なぜこうしたリバウンドは起こるのでしょうか。
「急なダイエットをすると、痩せにくい体質になります」
「食事制限では筋肉ばかり落ち、基礎代謝が下がるから」
こうした解説をする運動や栄養の専門家は少なくありません。
しかし、これは誤りなのです。
なぜなら、体質はDNAをいじらなければ変えられませんし、一般女性の筋肉量などたかが知れているからです。
そうではなく、リバウンドが起きる本当の原因は「ドーパミンの感作と耐性」なのです。
巷では「炭水化物を一切とらない」なんてダイエットが流行っていますが、多くの方が痩せた後、リバウンドしてしまうのです。
なぜなら、私たち日本人の多くが「お米に依存している」からです。
お米だけは毎日食べても飽きませんし、どんなに作るのが大変であっても、昔から作り続けています。
また同じ炭水化物であっても、リンゴやジャガイモでは、お米の代替えにはならないのです。
そして、私がここで言いたいことは、
「そんなお米を長らく断った後に食べたなら、何が起こると思いますか」
という話なのです。
そうです。感作によって大量のドーパミンが放出され、
「やっぱり、お米って美味しい」
となり、その後は「もう一回だけ」という無意識が働いてしまうのです。
しかし、感作はもう起きません。
そのため「食べても食べても、お腹が空く」などと言いながら、大量に食べ続けてしまうのです。
これは、本当のところは「食べても食べても、ドーパミンが出ない」が正しい表現なのです。
そして、「元の洋服が入らない」という痛みや、「ダイエット前の体重+α」まで増えた所で、ようやく過食は止まるのです。
少し長くなりましたので、いったんここでの話をまとめてみますと
・依存症の治療では、科学的な「正しい知識と理解」が大切となる。
・依存症の正体は、「快」という感情をもたらすドーパミンである。
・この脳内物質は、「食事」「性的な活動」「業務の終了」の際に分泌される
・ドーパミンには「耐性」と「感作」という特性がある
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第397話
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「性依存症」教育講演 ⑫
依存症の再発について
「再発」についても話をしてみたいのですが、例えばアルコール依存症の世界では「もう20年、お酒を飲んでいない」という患者さんはたくさんいらっしゃいます。
しかし、そんな方が娘の結婚式などで「今日だけは特別」と言って飲んだらどうなるでしょうか。
本人はもちろん、家族だってお酒を20年も断てってきた実績から
「1回、飲んだところで、また次の日から断酒を再開すればいいじゃないか」
と考えるわけです。
しかし、残念ながらその後、大変なことが起きてしまうのです。
なぜならドーパミンには「耐性」に加えて、「感作」という特性があるからです。
これは、
「長らくお酒を断っていたアルコール依存症の人がお酒を摂取すると、大量のドーパミンが脳内に分泌されてしまう」
という特性で、つまり患者さんはとてつもない快楽を得てしまうのです。
これは、私たちが「10年ぶりにお寿司を食べた」なんて場面をイメージすると分かりやすいかもしれません。
すると、患者さんの中では意識というより無意識のレベルで
「せめてもう1回、あの感動を」
となり、必ずお酒に手が伸びてしまうのです。
しかし、飲んだところで期待していたレベルの感動はもう味わえません。
なぜなら「感作」は一度きりだからです。
つまり期待していた幸せが空振るわけです。
ただし、当の本人はそんな理屈を知るよしもないため、
「もう少しだけ」「もう一日だけ」
となり、そこに耐性もあいまって、あっという間に「朝からお酒が止まらない」「お酒のことで、毎日家族と喧嘩する」生活に戻ってしまうのです。
プラセボのレシピ:第396話
東京都豊島区にある心療内科・精神科
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うつ病や不安障害に加えて、復職支援や依存症、発達障害の治療を受けることも可能です。
「性依存症」教育講演 ⑪
否認について(その2)
「タバコが美味しい」と答える方が、なぜ「否認」と言い切れるのか。
それは、喫煙している方に、
「初めてタバコを吸った時から『美味しい』と感じていたのですか」
と尋ねたなら、誰もが「いいえ」と答えるからです。
喫煙者がタバコを「美味しい」と感じる理由は「味や香り」ではなく、「吸うとドーパミンが分泌されるから」に過ぎないのです。
しかし、吸い始めた当初は、頭痛や吐き気、めまいといったタバコの副作用が出るため、「美味しくない」とか、「なぜ大人はこんなものを」と感じるのです。
しかし、吸い続けていくうちに、人はこうした身体的な副作用に慣れるため、「最近味が分かってきた」などと感じるようになるのです。
加えて、そこにドーパミンの「耐性」が加わることで、誰もがより「重い銘柄」「たくさんの本数」を求めるようになるのです。
コーヒーだって同様です。初めてコーヒーを飲んだ際に「ブラックが一番美味しい」なんて感じる人はいませんよね。
それこそ初めは、クリームや砂糖なんかをたっぷり入れて副作用を誤魔化しながら飲むわけです。
しかし、飲み続けることで副作用を感じなくなると、「砂糖ぬきで」とか「ブラックで」となり、中には離脱症状を回避するため「美味しくないけど、一日に何杯も飲む」といった方までいるのです。
物質依存症の原因について、医療職者でも、患者さんの性格や心の弱さ、つまり「依存体質」などと考えている方が少なくありません。
しかし、お酒でも薬物でも一定以上の「量 × 時間」で誰もが依存するわけですから、やはり物質依存症の根本の原因は「依存物質の存在」なのです。
そして、依存症になってしまったが最後、自力で克服することは極めて難しいのです。
次回は、「再発」について説明をしていきます。
プラセボのレシピ:第395話
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開院記念講演会のお知らせ(2/3 満員御礼)
来る2月21日、院内にて依存症の講演会を行います。
すでにテーブル席は埋まっておりますが、
お席だけのご準備でしたら若干の空きがございます。
(お陰様で2月3日にて満席となりました。)
ご興味あられる方のご参加をお待ちしております。
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「性依存症」教育講演 ⑩
否認について
否認についても話をしたいのですが、依存症の方は往々にして家族やサポートする方から
「この人はすぐに嘘をつく」「二度と信じない」
などと言われてしまいます。
しかし。本当に当の本人は「自分は嘘をついている」という自覚はないのです。
ただし「自分は依存している」という事実を自覚することができないため、再犯や再使用する理由を捏造してしまうのです。
たとえばタバコを例にあげるなら、喫煙者は吸う理由を尋ねられると
「ストレスが多いから」「仕事が大変で」
などと答える方は多いでしょう。
しかし、そんな彼らが「仲間との飲み会」や「ハワイ旅行の最中」でタバコを吸わないのかと言うと、そんなことはないわけです。
結局、彼らが喫煙する理由は「タバコを吸うとドーパミンが出るから」であり、あとは「ニコチンなどの離脱症状」なのです。
喫煙者はタバコに含まれる化学物質の血中濃度が低下すると「不安」や「緊張」という離脱症状が出現するため、
「タバコを吸いたい」
といった渇望が生まれるのです。
しかし、喫煙者はその事実を自覚できないため、吸う理由を尋ねられたなら
「ストレスで」「仕事の区切りで」「習慣なので」
などと考え答えてしまうのです。
また、吸う理由について「タバコが美味しいから」と答える方もいますが、これも否認です。
なぜかというと、…
(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第394話
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「性依存症」教育講演 ⑨
(前回の耐性の話の続きです)
患者さんの話によると、覚せい剤なども、初めは友人や知り合いから何気なく貰うケースが多いようです。
そして試しに使ってみたところ、なんだか気分がハッピーになる。
「気持ちがリフレッシュした」「やる気が沸いてきた」
と話される方もいます。
しかし、使っていくうちに、前回お伝えした「耐性」という特性により効果が落ちてくる。
貰う量では足らなくなるため、やがて自分で買うようになり、使用量が増えていくのです。
また、女性だと「簡単にやせるよ」と言われて始めてしまうケースが多いようです。
確かに、覚せい剤をやると痩せるのです。
なぜなら、覚せい剤の強い刺激でドーパミン出していると、食事をしてもドーパミンが出なくなるからです。
しかし、異性との交流や仕事の場面でもドーパミンが出にくくなるため、
異性への興味や仕事への情熱も失われ、ついには薬物ばかりを求める生活になってしまうわけです。
仕事も「薬物を手に入れるために働く」ようになり、ついには自身が薬物の召使いになってしまうのです。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第393話
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「性依存症」教育講演 ⑧
物質依存症と行為依存症
依存症は、おおまかに「物質」と「行為」の2種類に分けられます。
(「人間関係依存」については割愛します。)
本稿では、まずは物質依存症について説明し、そこから行為依存症である痴漢の理解へと繋げていきます。
世の中には、覚せい剤などの違法薬物やアルコール、タバコやカフェインなど、様々な依存性のある物質が存在します。
そして、これらを摂取すると人の脳内ではドーパミンという物質が分泌され、「快」と呼ばれる極めてポジティブな感情が生み出されるのです。
誤解されやすいのですが、「覚せい剤を打つから気持ちいい」のではなく、「覚せい剤を打つと脳内でドーパミンが分泌されるため」人は快楽を覚えるのです。
もちろん、アルコールやカフェイン、タバコでもこの仕組みは同様です。
本来、ドーパミンは「どのようなとき」に分泌されるのかというと、1つ目は「美味しいものを食べたとき」です。
私たちは、美味しいお寿司や焼き肉などを食べるとハッピーな気持ちになりますよね。
そして2つ目は「性に関連する行動」です。好きな人と性的な接触をすると誰もが幸せな気分になります。
そして3つ目が「業務の完了」です。「仕事を終わった」「マラソンで完走した」「大掃除が終了した」、こうした際にも脳内ではドーパミンが分泌されるため、私たちは清々しい感情が得られるのです。
そもそも、人を含めた全生物は「脳内でドーパミンを出すために」生きているといっても過言ではありません。
ですから、もしドーパミンを上手に放出させ続けられる装置などが開発されたなら、人生はそれで「あがり」です。
しかし、幸か不幸か、そう簡単にそうした装置は作れません。
なぜなら、ドーパミンには「耐性」という特性があるからです。
これは、「ドーパミンの出が悪くなる」といったイメージなのですが、例えば、美味しいお寿司を食べたその翌日に「同じお寿司」を食べたなら、皆さんはどう感じるでしょうか。
残念ながら初日の様な感動は得られませんよね。
これがドーパミンの「耐性」であり、「飽きる」という感情も、こうしたドーパミンの耐性によるのです。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第392話
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「性依存症」教育講演 ⑦
否認について
否認とは「本心に対する誤解」と表現できるのですが、たとえば痴漢をした方に「やってしまった理由」を尋ねると
「ムラムラしたら」
「セックスレスだったから」
「自分の性欲は強いので」
などと話す方は少なくありません。
しかし、そうした際に
「ムラムラしたからと言いましたが、あなたは常に痴漢する相手の顔を確認してから痴漢してきたのですか」
と尋ねると、誰もが「常にではありません」と答えます。
そこで、
「では、あなたにとって、性的興奮と女性のルックスとは関係が薄いのですね」
と聞くと、誰もが「いいえ」と答えるのです。
つまり依存症の方は、自分の行動の理由を誤解しており、これが「否認」と呼ばれる症状なのです。
否認は痴漢に限らず、ありとあらゆる依存症で見られる症状です。
そして、この「否認」という概念を患者さんが理解することなしに、依存症の治療を行うことはできないのです。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第391話
東京都豊島区にある心療内科・精神科
ライフサポートクリニック https://life-support-clinic.com/
(有楽町・副都心線 千川駅 徒歩0分)
当院は、カウンセリング治療を大切にするメンタルクリニックです。
復職支援・依存症・発達障害・PMS/PMDDの専門医による治療を受けることも可能です。
「性依存症」教育講演 ⑥
「動機づけ面接」の次は「疾患についての正確な知識と理解」です。
これは、依存症という病気が
・なぜ〇〇という症状が出て、××という経過をたどるのか
・回復していく方は、どのような考え方や行動をしているのか
・再発や再犯はどういったパターンで起きるのか
といった知識を、治療者が自身の臨床経験から伝えていきます。
私は依存症という病気をよく「海水」に例えるのですが、海で遊んでいる際に、「喉が渇いたから」といって海水を飲む方はまずいません。
なぜでしょう。
それは「塩辛い海水を飲んだなら、ますます喉が渇いてしまう」という事実を、私たちが知っているからです。
依存症という病気もまさしくこれと同様に、やればやるほど「もっと過激に」「もっと頻回に」と渇望度が増してしまう疾患であり、こうした知識を患者さんが得ることが、治療では欠かせないのです。
また、理解については「否認」という言葉がキーワードになります。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第390話
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「性依存症」教育講演 ⑤
入院後、患者さんに訪れる「二つのパターン」とは何か。
一つ目は、「入院をすると患者さんの飲酒欲求は消失する」という現象によって引き起こされます。
患者さんは自分の置かれた状況が「飲めない」と確信したならば、「飲みたい」という渇望が消失するのです。
(お酒が好きな方の多くが、平日は夜まで「飲みたい」という感情が出ないのに、休日は昼間から飲みたくなる心理も同様です)
すると、何が起きるのか。
患者さんは、「もう、お酒は飲みたいと思わないので退院させて欲しい」となり、強制入院したにも関わらず、治療を拒否してしまうのです。
また、仮に治療を拒否をしなかったとしても、病態が安定し入院中の外出や外泊の許可が降りると、
院外の「お酒が飲める」環境に置かれるやいなや、患者さんはコンビニの駐車場で酔いつぶれたり、病棟にお酒を持ち込んだりしてしまい、
「治す気がない方は診られません」と、今度は強制退院させられてしまうのです。
結局、どちらのパターンにせよ、主治医ともぶつかり病院にいられなくなり、お見舞いに来たご家族からも見放されてしまうのです。
これは、本当に怖い話です。
なぜなら患者さんは、依存症の症状のために強制入院となり、依存症の症状により強制退院させられてしまうからです。
そして、これは作り話でもなんでもなく、アルコール依存症の方に往々にして起こる未来なのです。
このような実例をあげながら治療へ導くのが、動機づけ面接です。
痴漢や盗撮を続けてきた患者さんに対しても、こうした「依存症の方に必ず起こる未来」をリアリティーを持って伝えることで、治療へと導くのです。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第389話
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「性依存症」教育講演 ④
では、依存症治療における3本の柱についてご紹介したところで、一つ目の精神療法の説明に入りたいと思います。
依存症治療の精神療法は「動機づけ面接」から始まります。
なぜ、依存症の治療は難しいのでしょうか。
それは患者さんが「治りたい・もうやめたい」と考えている一方で、「やめたくない・せめてもう一度だけ」という気持ちもたっぷり抱えているからです。
そして、こうした患者さんを治療へ導くには、治療者が「人間の行動原理」を理解していることが欠かせないのです。
人間の行動原理、すなわち行動の動機は極めてシンプルで、「痛みを回避し、快楽へ進む」と表現できます。これは人間だけに限らず、猫でも昆虫でも同じです。
叩いたり驚かしたりすれば逃げますし、餌や異性を見つけたならそちらへ寄っていくわけです。
そして依存症とは、特定の物質や行動に対し、脳が後天的に「快楽」と認知してしまう疾患であるため、行動原理上、依存症を抱えた方が対象をあらがうことは不可能なのです。
しかし、依存症という疾患は進行すると必ず逮捕や解雇といった社会的な痛みを引き起こします。
つまり「依存症を治療しなければ、あなたは必ず不幸になる」といった事実を、リアリティーをもって患者さんに伝えることができたなら、今度は「痛みの回避」という行動原理に沿って患者さんの行動を変えることができるのです。
「あなたは依存症という病気であり、この病気は○○の形で始まり、××な形で進行し、△△という結果が必ず待っている」
といった具合です。
具体的には、アルコール依存症では病気が進行していく過程で「身体依存」と呼ばれる離脱症状が必ず出現します。
アルコールの血中濃度が低下すると、「汗がとめどもなく出てくる」「手が震えて字が書けない」「ハンドルも握れない」といった症状が出てしまうのです。
すると患者さんは、お酒が切れるといつだって飲酒せざる得なくなってしまうのです。
しかし、こうしたことを繰り返していると、職場で「酒臭い」などと噂されるようになり、ミスや欠勤も増えるため休職せざる得なくなります。
つまり、アルコール依存症では身体依存が出たら最後、患者さんは専門の治療をに受けなければ、「休職からの解雇」という未来が待っているのです。
そして、その後はと言うと「なんとかなる」ということは起きず、仕事が無くなり暇も増えるため、飲酒量はますます増加しまうのです。
お酒を朝から飲んで仕事を探そうともしなければ、家族との喧嘩は絶えません。
最後は、お酒が切れると暴れたり幻覚まで出現したりするようになり、とうとう精神科病院へ強制入院させられてしまうのです。
こうして、ようやく本人が医療に繋がることで家族は一安心となるのですが、残念ながらまだまだ試練は続くのです。
なぜなら入院すると、患者さんにはお決まりの「二つのパターン」が待ち構えているからです。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第388話
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復職支援・依存症・発達障害・PMS/PMDDの専門医による治療を受けることも可能です。
「性依存症」教育講演 ③
「行為依存症」の二つ目の治療の柱は行動療法です。
これは簡単に言うと「問題行動できない仕組みを事前に作る」という治療法です。
例えば、ギャンブル依存症であれば、現金が手元に無ければ、患者さんは賭けられないわけです。
そこで家族の協力を借りて、本人に必要以外のお金を一切持たせないようにするのです。
そして、借金もできないように免許証や保険証も家族に預かって貰います。
これは、本人はもちろん家族にとってもストレスです。
しかし、自らこうした管理を課すことで、なんとか再発を食い止められている方は、私の患者さんにたくさんいるのです。
では、これを痴漢に当てはめるとどうなるかと言うと、最も重視されるのは「満員電車に乗らない」ということなのです。
そして三つ目の柱は心理療法です。
これは、ドーパミンやセロトニンといった科学的な知見からは説明ができない、いわゆる「心」について学んでいくプログラムです。
「痴漢行為と自尊心や自己肯定感について」「性犯罪と選民意識やストレスについて」こうしたテーマについて患者さんとディスカッションを行いながら理解を深めていきます。
(次回に続く)
プラセボのレシピ:第387話
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「性依存症」教育講演 ②
なぜ彼らは自分でも「認知のゆがみ」を自覚しながらも再犯をしてしまうのか。
ここで私たち治療者は、患者さんの「世の中には触られたい女性もいる」という認知が「本当にゆがんでいるのか」について、もっと考えなければならないのです。
私の外来には「先生は知らないと思うけど、本当に触ってほしい女性っているんだよね」「触った後、電車で降りる際に相手からウィンクされたことがある」なんて話をする患者さんもいます。
それらは作り話かもしれません。
しかし、SMなんかの世界では、ムチで叩かれたり、ロウソクを垂らされたりして喜ぶ方もいるわけですから、触られたい人がいてもおかしくはないと思います。
もちろん、ここで私は「だから触ってもいい」と言いたいのではありません。
そうではなく「治療者は痴漢が止まらない人に対して『触られたがる人がいる』とういった認知や発言を変えようとしたところで再犯予防に繋がらない」「彼らが痴漢行為を繰り返してしまうのは、認知のゆがみではなく行為依存症と呼ばれる病気だから」
といったことを本ブログを読まれることで多くの方に理解して欲しいのです。(次回へ続く)
プラセボのレシピ:第386話
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復職支援・依存症・発達障害の専門医による治療を受けることも可能です。
「性依存症」教育講演 ① (全32回)
(本文は「性と心の学会誌(第10回大会:教育講演)」の転載となります)
私は、性やギャンブルなどに代表される「行為依存症」という疾患の治療を、三つの柱を元に行っています。
一つ目は、精神療法です。
これは精神医学に基づいたカウンセリングであり、患者さんに「依存症についての科学的な知識」を伝えることを目的としています。
巷のカウンセリングでは、患者さんの生い立ちや幼少体験などを掘り下げることで、苦しみや葛藤の原因を探っていきますが、依存症、とりわけ痴漢などの性依存症では、これをよしとしません。
なぜなら、後ほど詳しく述べますが、「痴漢」「盗撮」「露出」「覗き」などの性依存症の原因と、患者さんの生い立ちとはほとんど関係が無いからです。
また、カウンセリングの世界では往々にして「認知のゆがみ」を修正することで治療をしていくのですが、性依存症でこの技法を用いても、なかなか上手くいきません。
例えば、痴漢を繰り返してきた方にその理由を尋ねると「世の中には触られることで喜ぶ女性もいる」「ちょっとくらいなら触ってもばれないと思う」などとを話される方は少なくありません。
彼らは逮捕をされると、刑務所の職員やカウンセラーから「あなたの認知は間違っている」「そんな女性はどこにもいない」といった教育的な治療を受けるのです。
すると、患者さん自身も「そうか、自分は認知がゆがんでいたために痴漢をしていたのか」と施設の中で納得されるわけです。
しかし、彼らがそれで再犯をしないのかといったらそんなことはなく「出所後も再犯してしまった」なんて方が、それこそ毎週のように私の外来を訪れるのです。
なぜ彼らは自分でも「認知のゆがみ」を自覚しながらも再犯をしてしまうのか。(次回へ続きます)
プラセボのレシピ:第385話
東京都豊島区にある心療内科・精神科
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当院は、カウンセリング治療に重きをおいたメンタルクリニックです。
復職支援・依存症・発達障害の専門医による治療を受けることも可能です。
依存なのか「〇〇」なのか
「自分がスマホ依存症なのかを知りたいです」
先日、こうした相談を受ける機会がありました。
お酒、タバコ、薬物、ネットゲーム、……
人は様々なものに依存してしまう生き物ですが、
そもそも「依存」とは何なのでしょうか。
たとえば、精神科の外来では
「依存するのが怖いので、薬は飲みたくありません」
と話される方がいます。
しかし、視力が悪いため眼科にかかり、
「依存するのは嫌なので、眼鏡はかけたくありません」
と話す方はいないわけです。
もちろん、私はここで
「だから精神科薬を飲みなさい」と言いたいのではありません。
そうではなく、「依存」という用語を正しく理解することが大切だと言いたのです。
そもそも人は何のために生きるのかというと、
答えは「幸福感を得るため」だと言えます。
しかし、幸福とは「短期的」なものと「長期的」なものに分かれるのです。
たとえばタバコを吸う人は、なぜタバコを吸うのかというと、程度の差こそあれ「幸福感を得るため」です。
しかし、だからといってタバコをたくさん吸ったその翌日に、「あー、昨日はたくさんタバコを吸って良かった」と思う方は少ないはずです。
つまりタバコが喫煙者にもたらしてくれる幸福感はごく短期なものなのです。
あわせて健康のリスクや、金銭や時間のロスもあるわけです。
一方で、眼鏡はと言うと、眼鏡をかける方も、もちろんその理由は「幸福感」を得るためです。
読書や映画鑑賞はもちろん、日常生活全般が豊かになります。
しかし、眼鏡はタバコと異なり、後悔をしたり、自分のことを「意志が弱い」などと責める方はいないのです。
つまり、たしかに眼鏡をかけている方は、特定の生活場面においては眼鏡が手放せないことはたしかです。
そうて、もしも眼鏡をなくされたなら、タバコが切れた方と同様に必死で探し求めると思います。
しかし、視力が弱い方は眼鏡をかけることにより、短期的にも長期的にも幸福感を得られるわけですから、
これは「依存」ではなく、「活用」と表現できるのです。
依存 …… 短期では幸福感が得られるも、長期ではむしろ損なわれる。
活用 …… 短期でも長期でも幸福感が得られ、用いたことに後悔も伴わない
現代において、スマホはなくてはならないものだと思います。
しかし、ご自身がスマホを「活用」し人生を豊かにしているのか、
依存した結果、操られスマホの奴隷となってしまっているのか、
「活用」と「依存」といった視点でスマホを眺めてみてはいかがでしょうか。
プラセボのレシピ:第384話
有楽町線・副都心線 千川駅より徒歩0分
心療内科・精神科 ライフサポートクリニック
当院は、カウンセリング治療に重きにおいたメンタルクリニックです。
また、復職支援・依存症・発達障害の治療では東京都でのパイオニアを目指しています。
「違法だからダメ」と声高に叫ぶ人
「なぜ、コカインや覚せい剤を用いてはいけないのか」
こんな質問をされたなら、皆さんは何と答えるでしょうか。
・始めたら、やめられなくなるから
・重篤な後遺症が残るから
と、答える方は少なくないと思います。
しかし、もし「やめられない」のが問題であれば、
・年に数回なら(コントロールされていれば)良いのか
・それを言うなら、かっぱえびせんだって危ない
とも言えますし、
「後遺症の可能性」についても、
・すでに長年使っており、無症状の人はいいのか
・それを言うなら、格闘技も危ない
とも言えるのです。
では、なぜ用いてはいけないのか。
・法律違反だから
・闇組織の資金源になるから
こうした意見もあるかもしれません。
しかし、何か理由があるために法律で規制されているわけですから、
「違法だから」だけでは、説明として不十分ですし、
「闇組織の資金源」についても、
もし違法でなければ、そうした資金源にはなり得ないのです。
もちろん、だからと言って、
・コカインも覚せい剤も危険ではない
・大麻も含めて合法化すべきだ
などと、言いたいわけではありません。
それどころか、私の依存症外来には、
・毎回、「これで最後」と思いながらも繰り返してしまう
・やりたくもない仕事を、購入資金のために続けている
こうした方が連日のように訪れるのです。
では、なぜ用いてはいけないのか。
答えは、「依存症という病」になるリスクがあるからです。
もちろん、依存症になるまでの過程は人によって様々です。
使用者の体質も関係ありますし、発症前に寿命を迎える方もいるでしょう。
しかし、もしなってしまったその時には、
「意志の力では断つことができない」という周囲の誰からも理解が得られない症状が出現し、
「薬物を日常のスパイスしていた人生」が、
気がつくと薬を手にするためだけに仕事をするようになり、
「薬物の召使いにされる人生」へと変わってしまうのです。
(プラセボのレシピ:第361話)
人がお酒を飲む理由は、酔うためである。
人はなぜ「薬物」に依存するのか。
多くの人はその理由について、
「快楽に溺れるため」と考えます。
しかし、そうした考えは誤りだと思うのです。
なぜなら、人は飽きるからです。
高級料理しかり、マッサージしかり、
連続して繰り返えされたなら、いつしか快楽は減弱し、苦痛にすらなりうるのです。
では、なぜ人は依存するのか。
おそらくその答えは、
「苦痛を緩和するため」だと言えるのです。
医療の現場では、耐え難い肉体的な痛みに対し麻薬が用いられることは一般的です。
そして、こうした薬物は、肉体的な痛みのみならず、心理的な痛みをも緩和するのです。
覚せい剤、コカイン、大麻、LSD、アルコール、煙草、
私たちの住む社会には、こうした依存性の高い物質がたくさん溢れているわけですが、
こうしてものを日常的に用いている人の心の裏側には、
「孤独や不安」、「悲哀感や無力感」、
といった負の感情が、多分にあることを理解して欲しいのです。
(プラセボのレシピ:第360話)
「ギャンブル依存症」が薬で治るかもしれない
アルコール依存症治療薬であるセリンクロ(ナルメフェン)が、ギャンブル依存症(病的賭博)にも有効であった論文を紹介します。
今春、本邦でも発売となる本剤があれば、薬物療法のみでのギャンブル依存症の治療ができるようになるかもしれません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【背景/目的】
病的賭博に対するナルメフェン25、50、100mg/日の、有効性と忍容性を検討した。
【方法】
病的賭博患者207例(男性117例、女性90例)を対象に、16週に渡る多施設共同プラセボ対照二重盲検試験を行った。
主要評価項目はYale‐Brown強迫尺度とし、その下位項目とおよびGambling Symptom Assessment Scale、臨床全般印象度(CGI)‐改善度を副次評価項目とした。
【結果】
ナルメフェン25mg/日大群52例、同50mg/day群52例、同100mg/day群52例、プラセボ群51例で、
Yale‐Brown強迫尺度Pathological Gambling総スコアに有意な群間差を認めた。
回帰係数推定の一対検定では、ナルメフェン25mg/day群と同50mg/day群ではプラセボと比較し有意差を認めた。
Gambilng Symptom Scaleでもナルメフェン群で優れた効果を認め、CGI改善度スコアによる奏効例[2(大きく改善)、または1(きわめて大きく改善)]の割合はナルメフェン25mg/day群でプラセボと比べて有意差を認めた。
有害事象としては、悪心、浮動性のめまい、不眠を認めた。
【結論】
低用量(25mg/日)のナルメフェンは病的賭博に対して有効であり、有害事象も少なかった。
【参照論文】
American Journal of Psychiatry
ulticenter Investigation of the Opioid Antagonist
Nalmefene in the Treatment of Pathological Gambling
Jon E. Grant, J.D., M.D.
Marc N. Potenza, M.D., Ph.D.
Eric Hollander, M.D.
Renee Cunningham-Williams,
Ph.D., M.P.E., L.C.S.W.
Tommi Nurminen, M.Sc.
Gerard Smits, Ph.D.
Antero Kallio, M.D., Ph.D.
続「魔法の言葉」
私は仕事柄、様々な方から転職の相談を受けるのですが、
そうした場面では決まって
「年収に惑わされないようにしてください」
とお伝えするようにしています。
なぜなら転職をするにあたって、もしも「賃金」がその人にとって重要な軸であったなら、
大切なのは、
「初任給ではなく生涯賃金」
だからです。
具体的には、
・その業界は上り坂なのか、下り坂なのか
・そこで身につくスキルはどんなものなのか
・副業はできるのか、できないのか
といった具合です。
そして、こうした考え方は、ギャンブル依存症の治療(援助者の関わり)でも当てはまるのです。
なぜなら、依存症という病気には「治癒」という概念がないため、生涯かけて取り組む必要があるからです。
つまり、ギャンブル依存症の治療で大切なことは、
「目の前の再発を防ぐこと」
ではなく、
「生涯におけるギャンブルの回数を最小化」
することなのです。
たしかに、援助者が徹底的に監視することで、「最初の一年」の再発率を大幅に下げることができるでしょう。
しかし、「一生、誰かに監視され続ける人生」に耐えられる人などいるはずもありません。
そうした仕組みは必ず破綻してしまい、やがて再発へと繋がるのです。
すると、援助してきた人達は、無力感や被害者意識などもあいまって、
お説教をしたあげく監視を強化するか、
「約束通り」と、見捨ててしまうのです。
もちろん、本人だってそうなることは分かっています。
結果、
「取り返えさなくては大変なことになる」
と、いった考えのもと
(こうした「思考形式」も病気の症状です)
再発はどんどんとエスカレートしていき、
「首が回らなくなって発覚」
という結末はパターンなのです。
繰り返しになりますが、依存症という病気に「治癒」という概念はありません。
そのため、治療はどうしたって、
「本人がやりたくても出来ない仕組み」
を援助者の力を借りながら作ることが欠かせません。
しかし、それ以上に大切なことは、
もしも患者さんが再びギャンブルに手を染めてしまった際に、
すぐさま援助者にその事実を告白することで、再発の連鎖を断ち切ることであり、
そのためには援助者が患者さんから、
「この人には、安心して再発を告白できる」
と認識されていることが、欠かせないのです。
プラセボのレシピ:第356話
ギャンブル依存症を救う「魔法の言葉」
「本人への接し方を教えてください」
先日、ギャンブル依存症の患者さんの家族の方から、こんな質問を受ける機会がありました。
ギャンブル依存症では、周囲の方が本人へ、
「二度とやるなよ」
「次やったら、分かっているだろうな」
なんて言葉を日常的にかけてしまうことが少なくありません。
しかし、こうした対応は、本人の回復においてむしろ妨げになるのです。
なぜなら当の本人も「そんなことは百も承知」しているからです。
これは、ダイエットしかり英語の勉強しかり、自分でも「やった方が良い」と分かっている事柄に対し、
「なんで、やらないんだ」
と人から言われると、ますますやる気が失せてしまう構図と同じであり、
そうした声がけは、本人のギャンブルへの渇望を刺激するだけなのです。
そもそもギャンブル依存症が恐ろしい理由は、大量の借金による生活や人間関係の破綻です。
つまり、仮に「病気」が再燃してしまいギャンブルをしたとしても、
「たった一度だけ」なら大事には至らないのです。
(せいぜい数万円の損失です。)
しかし、日ごろから周囲の方が
「まさか、してないだろうな」
「あなたのせいで、うちの家計は」
などと話していると、
本人がうっかりギャンブルをしてしまった際、
「家族にバレたら大変なことになる」
「早く負けを取り戻さないと」
といった思いから、行動はどんどん加速し、
「クビが回らなくなったタイミングで家族に発覚する」
といったケースはパターンなのです。
これは私からのお願いですが、
依存症の患者さんをサポートする方は、患者さんに確認や念押しをするのではなく、
「この病気は再発が多いらしいので、もしやってしまったら怒らないので必ず教えてね」
「その時は私も主治医の所に付き合うからね」
と伝え、あとは見守るだけの役割りに徹して頂きたいのです。
プラセボのレシピ:第355話
行為依存症とは、PTSDである!?
今日は、痴漢や盗撮、ギャンブル依存症などに代表される「行為依存症」の原因について書いてみたいと思います。
結論から言うと行為依存症の原因はビギナーズラックです。
「最初にドカンと当たったから」ただそれだけなのです。
私はこれまで「競馬は止められないけど、競艇(競輪)は止めている」なんて方にたくさん会ってきました。
そこで「なぜ競艇は止められたのでしょう」と尋ねると、誰もが「競艇はつまらなかったから」と話されるのです。
しかし、ギャンブルにおいて「つまらなかった」なんて理由は有って無いようなもので、ようはそれで「勝てなかった」だけなのです。
つまり、誰だって(それこそ依存症になってしまった方であっても)、もし初回のレースで数万円負け、二回目でも数万円負けていたなら、
「ギャンブルなんてくだらない」「二度とするもんか」という価値観になるわけです。
しかし、不幸にも「初回で」または「大きく負ける前に」ドカンと当たってしまうと人はその記憶に縛られ、
「○○にお金を賭ける」といった行為が、人生のあらゆる行為より価値を帯びてしまうのです。
もちろん、ビギナーズラックを当てたからといって、全ての方が依存症になるわけではありません。
しかし、突然「悲惨な体験」を被ることでPTSDを発症されてしまう方がいる様に、
突然「大きな当たり」を体験することで、ギャンブル依存症を発症し、「お金を賭ける」という行為に病的に囚われてしまう方がいるのです。
恥ずかしながら私自身、精神科医になってしばらくの間は「行為依存症」という病気について、その存在すら知りませんでした。
しかし、よくよく考えてみると、これとよく似た現象は、私たちの身の回りでも起きているのです。
「昔は〇〇が嫌いだったけど、××をきっかけに〇〇が大好きになった」なんて話がその典型で、
「キュウリが大の苦手で、匂いすら耐えられない」なんて方が、たまたま棒棒鶏(バンバンジー)を食べ「美味しい」と感じると、その後は棒棒鶏はもちろん、キュウリという野菜自体をも「美味しい」と感じるようになったり、
あとは、「ミスチルの良さが分からない」なんて方が、同僚がカラオケでミスチルを歌った際に「あれ、この曲すごくいい」なんて感じると、「それを機にミスチルの大ファンになってしまった」、
こうした話はいたる所にあるのです。
ネガティブな価値観が突然ポジティブな方向へと大きく揺れ動かされると、
私達の脳内には、消去することが極めて困難な「依存症回路」なるものが形成されてしまうのです。
プラセボのレシピ:第354話
痴漢の「認知のゆがみ」は嘘である ?
私の外来には、
「痴漢を繰り返したため刑務所に入り、出所後に家族の勧めで来院した」
といった方が日常的に訪れます。
彼らが「家族の勧めで」とあえて述べる理由は、
・自分としては治療の必要性は無いと思う
・やっと釈放となった矢先に通院なんて面倒
といった気持ちの表れなのですが、
そこで私が
「再犯を繰り返してきたのに、なぜ治療が不要と思うのですか」
と尋ねるとほとんどのケースで、
・刑務所内で依存症の治療プログラムを受けたため、もう治療は十分である。
・自分が痴漢をしてきた理由は「認知のゆがみ」を抱えていたことが分かった。
・過去の自分は「世の中には触られたい女性がいる」というゆがんだ認知を抱えていた。
・今は「それが間違いであり、そんな女性はいない」と理解している
・二度と痴漢はしないし、今後は〇〇の仕事につき、××な人生を送るつもりである。
といった答えが返ってくるのです。
もちろん彼らの「もう痴漢はしない」という訴えが本音であることは、ひしひしと伝わってきます。
それは、激しい二日酔いのさなかに「今夜は飲むぞ」と考える人がいないように、
やっと刑務所から出たさなかで「また痴漢をしたい」と考える人もまたいないからです。
しかし、自身が痴漢を繰り返してきた理由について、
「『世の中には触られたい女性がいる』というゆがんだ認知(誤解)が原因だった」
と考えている限り、彼らの再犯リスクは極めて高いままなのです。
なぜなら私の外来には、
「刑務所内で認知のゆがみを修正したにも関わらず、再犯してしまった」
といった方もたくさん訪れるからです。
痴漢を繰り返してきた方が、自身の問題行動の心理背景について、
「『痴漢されたい女性もいる』という認知が原因であった」
と考えていることは、
パチンコ依存症の人が、借金を繰り返してまでパチンコが止められなかった理由について、
「『パチンコで勝ち続けられる人もいる』と誤解していたから」
と自己分析するのと同じくらい的外れなものであり、再犯や再発の予防には全く役立たないのです。
(真相はともかくとして、世の中に「痴漢されたい女性」や「パチンコで勝ち続ける人」がいたならば、彼らの認知はゆがんでいないからです)
事実、そんな場面で私が、
「でも、SM好きな人がいるように、触られたい女性だっているかもしれませんよ」
「ネットの掲示板には、痴漢願望を抱えた女性の書き込みもあるようですよ」
などと言うと、とたんに彼らは、
「やっぱりそうですよね」
「先生もそう思われますか」
などと話すのです。
これこそが「否認」と呼ばれている依存症の主症状なのですが(自分が自分についてしまっている嘘に気がつけない)、この点について彼らに非はないと思うのです。
なぜならこうした否認は、性依存症について無知な治療者から、無効な治療(認知行動療法)を受けた結果として育まれたものだからです。
では、有効な(再犯を防ぐ)治療とはどんなものなのか。
それは彼らが思い込んでいる「触られたい女性もいる」といった認知を正そうとするのではなく、
(患者さんの中には、「若い頃に痴漢した相手と、その後、交際した」と話す人もいます)
「もし、そうした女性がいたとしても、触られたい相手は『あなた』なのか」
「いたとしたなら、失敗せずにその女性を選別することができるのか」
こうした質問をしていくことで、患者さんの否認を壊していくのです。
加えて、自身を魅力的と思っていたり、そうした選球眼なるものを備えていると考えている人に対しては、
「痴漢されたい女性であっても、触られた後に『痴漢です』と声をあげることで多額の示談金を手にできるのであれば、
少なくとも私がその女性であったなら声をあげると思うのだが、それについてどう思うか」
こうした質問をすることで、自身が痴漢をやりつづけていた理由について、
「触られたい女性がいると誤解していたからではなく、あなたが知らない行為依存症という病の可能性がある」
と伝えていくことが大切なのです。
プラセボのレシピ:第353話
※ 依存症の治療は言葉にするのが難しく、またこれといった教科書などもありません。当事者やその家族はもちろんのこと、治療者すらも困っているのが現実です。このブログはそんな方々に向けて「少しでも力になれれば」といった思いから、日々の臨床での知見や気づきを書いています。
「シャブ山シャブ子」は意志が弱いのか ?
モルヒネという物質をご存知でしょうか。
モルヒネは、薬剤としてはとても強力な鎮痛・鎮静作用があり、ガンなどの疼痛緩和医療において非常に有効である一方で、
強い依存性を持つために、世界各国で法律によって扱いが厳しく規制されている麻薬でもあります。
しかし、驚くべきことに、薬の教科書には以下のようなことは書かれているのです。
「麻薬を医療目的で適正に使用したならば、依存症や錯乱などの副作用は問題にならないことを患者に説明する」
(今日の治療薬2017:南江堂)
ここで言う医療目的とは「ガンの痛み」だけでなく、「骨折」や「重度の喘息発作」のことを指すのでが、なぜ医療目的であれば「依存症にならない」と明記されているのか。
それは、適切な医療によって骨折が治癒したり喘息発作が治まれば、一人で麻薬を用いているよりも、家族や友人・恋人などと過ごす方が楽しいからです。
しかし、その一方で「体ではなく心に強い痛みを抱えた人」が用いると、その痛みが取れない限り、モルヒネは「心の痛み止め」として継続使用されることとなり、端から見ると依存しているように映るのです。
もちろん、話はそんな単純なものだけではありません。
実際に麻薬でも覚せい剤でも、継続使用することによって脳内の報酬系が刺激され、コーヒーやアルコールのように「痛みがなくても欲しい」という状態になるのかもしれません。
しかし、少なくとも私が診察室で診てきた薬物依存主の患者さんたちは、誰もが「生き辛さ」を抱えた方たちばかりであり、
回復された(薬物を再使用することなく社会生活を送れるようになった)方たちは、ご自身の「生き辛さ」に対して、何かしらの解決策がとられてきた方たちなのです。
薬物依存症とはその薬物を意志が弱いから使っているのではなく、心の痛み止めとして手放せなくなっている状態であることを一人でも多くの方に理解して頂きたいのです。
参考書籍:薬物依存症 ちくま新書 松本俊彦著
プラセボのレシピ:第352話
パチンコの楽しみはどこにある ?
診察室で、初対面のパチンコ依存症の患者さんに対して、
「あなたにとって、パチンコの何が楽しいのかを教えてください」
と質問をすると、誰もが言葉に詰まってしまいます。
なぜなら、患者さん自身も「なぜ、自分がそこまでパチンコにはまっているのか」が分からないからです。
しかし、質問をされたからには懸命に答えを探さそうとされますし、誰もが何かしらの答えを述べられます。
先日も、とある患者さんに同様の質問をしたところ、彼は困惑しながら「習慣だと思います」と答えました。
そこで私が、
「ではあなたは、帰宅ルートに暴漢が待ち構えていることを知りえた際も、『習慣だから』という理由でルートを変えることなく、みすみす暴漢からお金を巻き上げられるのですか?」
と尋ねると、彼は「そんなことはありません」「習慣的な帰宅ルートを変更して帰ると思います」と話されるわけです。
もちろん、これは彼がが嘘をついているのではなく、「自分は依存症という病気である」という自覚を持てないがゆえに生み出される、否認(自分に対する嘘)と呼ばれる症状です。
そもそも、私はかねてより「パチンコというゲームは面白くない」と考えているのです。
なぜなら、パチンコは麻雀やゴルフと違って、お金を賭けない(換金できない)状態で楽しめる人が皆無だからです。
ゲームセンターには、メダルゲームの一つとして、パチンコ台が置いてあることがあります。
しかし、それすら、所詮はメダルを賭けているから楽しいのであり、またメダルが換金できない以上、いつしか必ず飽きてしまうのです。
事実、そうした台に行列ができる話など聞いた事がありませんし、「メダルゲームのパチンコが原因でサラ金に手を出した」なんて人が私の依存症外来を訪れたこともありません。
また、パチンコ台は定期的に様々なキャラクターとコラボレーションをしていますが、その理由も「パチンコ自体は楽しくないから」であり、こうした現象は将棋や麻雀では起きえないのです。
つまり、依存症であろうとなかろうと、パチンコをしている人は、「結局はお金を賭けているから熱中しているに過ぎない」ということです。
そして賭けである以上は、その対象が株であれ仮想通貨であれ、損益が膨らみ続けているにも関わらず、その銘柄に賭け続ける行為は極めて不合理ですし、
ましてや「借金をしてまで」なんていうのであれば、それはもう極端に知性が欠けているか、病的な精神状態と判断せざるを得ないのです。
では、なぜ世の中にはこうした病的な精神状態(ギャンブル依存症)になってしまう人がいるのでしょう。
次回はその事について書いてみたいと思います。
プラセボのレシピ:第351話
※ 依存症の治療は言葉にするのが難しく、またこれといった教科書などもありません。当事者やその家族はもちろんのこと、治療者すらも困っているのが現実です。このブログはそんな方々に向けて「少しでも力になれれば」といった思いから、日々の臨床での知見や気づきを書いています。
クロス・アディクション」は依存症と呼べるのか ?
依存症の書籍や記事を読んでいると「クロス・アディクション」という用語を目にすることがあります。
これはウイキペディアによると、
複数の対象を持つ嗜癖。嗜癖は対象が異っても、同じ空虚感から同じようなメカニズムで発症しているので、同時に2つ以上の嗜癖が合併することがある(酒とギャンブル、薬物と性行為など)。反社会性の強い対象へ移行しつつ(アルコール→ギャンブル→薬物)嗜癖が続くことも多い。
とのことです。
また、私の患者さんの中にも「自分はクロス・アディクションなので重症です」と話される方もいます。
しかし、そもそも依存症とは「特定の物質や行為・過程に対して『やめたくても、やめられない』『より強い刺激を求める』『常に頭から離れない』状態」を指すわけですから、
対象が複数であったり移り変わる時点で「特定の対象にのめり込んでいる」とは言えないわけです。
たとえばお酒であれば、元々はビールだけでなくワインや日本酒なども飲んでいた人が、依存症になってしまうと、
・アルコールであればなんでもいい(バリエーションの減少)
・チャンスがあれば昼からでも飲む(TPOをわきまえなくなる)
・食事にすら興味を示さなくなる(食欲をも上回る強い渇望)
となり、値段が手ごろなサワーや焼酎を、つまみも取らずにダラダラと飲み続けるのです。
つまり何が言いたいかと言うと、「クロス・アディクション」こそが私の言う「なんちゃって依存症」であり、これが依存症と同じ疾患にカテゴライズされている結果、依存症という病態がより理解されにくいものになっているのです。(どちらも、患者さんが苦しいことに変わりはないのですが。)
では、このように「対象が2つ以上であったり、対象が移り変わる」状態にある方は「依存症ではなく何なのか」と言うと、答えは「パーソナリティ障害」である可能性が極めて高く、
治療は(宣伝と感じられるかもしれませんが)拙著を読んで頂くことをお勧めしているのです。
プラセボのレシピ:第350話
合法化は安全性を担保する ?
カナダの娯楽用大麻の合法化に際して、東京スポーツさんより取材を受けました。
億男は幸せになれるのか?
先日、とある借金を抱えた方から
「もし宝くじが当たったなら、自分は幸せになれるでしょうか」
といった質問を受けました。
今日は、そんな「誰もが一度は夢見る宝くじ」について考えてみたいと思います。
では、想像しながら読んで欲しいのですが、
いつも自分の部屋を散らかしてしまう男性がいたとして、それを見かねた友人が代わりに部屋を片付けたなら、その後、部屋はどうなるでしょうか。
もちろん、しばらくは整理された状態が続くでしょう。しかし、いつか必ず元の状態へと戻ってしまうのです。
なぜなら、彼の部屋の状態は、彼の持つ「整理や整頓に対する価値観」の表れであり、彼がその価値観を持ち続けている限り、いくら他の人が片づけたところで問題の解決には至らないからです。
では、この話を宝くじに当てはめたならどうなるでしょうか。
言わずもがなですが、お金は使えば無くなってしまいます。
つまり、他の誰かが部屋を片したところで、何度でも部屋は散らかるように、
仮に宝くじで大金を得られたとしても、本人の「収支バランスに対する価値観」が変わらない限り、いつか必ず借金を抱えた状態へと戻ってしまうのです。
では、そんな価値観を変えるためにはどうすればよいのか。
残念ながら、私にもその方法は分かりません。
しかし、話を掃除に戻してみると、他人が部屋の片づけをしている限り、当人が「問題を作り出す価値観」に目を向ける機会は永遠にそがれたままとなるのです。
つまり、宝くじが人に幸せを運ぶか否かを論じるその前に、もし借金をした状態で宝くじが当たろうものなら、それこそ、当人が抱えている「問題を引き起こしている価値観」に、ますます目を向けられなくなるだけだと思うのです。
プラセボのレシピ:第349話
「否認」という病
喫煙している医師に対して、
「なぜ、肩身の狭い思いをしてまでタバコを吸っているのですか」
と尋ねると、
「緊張やストレスが緩和されるから」
といった答えが返ってくることがあります。
しかし、そうした方に
「では、(ストレスが無いであろう)ハワイなどのリゾート地では吸わないのですか」
と尋ねたなら、彼らは決まって
「リゾート地でも吸っています」
と答えるのです。
もしくは、
「自分は過去に禁煙に成功したことがあるので、時が来たら(値段が○○円になったら)やめるつもり」
などと答えるケースもありますが、
そうした発言は重度の肥満の方が、
「過去に痩せたことがあるので、今は減量をしません」
と答えるのと同じくらい非論理的であることに彼らは気がつかないのです。
もちろん、私はここで彼らのことを「嘘つきだ」「非論理的だ」などと非難したいわけではありません。
そうではなく、
喫煙者は「自身がタバコに依存している」という事実を認知できないため、「吸う理由」や「止めない理由」を無意識が捏造してしまう
ということを知って頂きたいのです。
こうした「自分で自分に対して嘘をついてしまう」症状を精神医学では「否認」と呼ぶのですが、
依存症は「否認の病」と呼ばれるほど、こうした否認症状が次から次へと出現してしまうのです。
次回も、否認について書いてみたいと思います。
プラセボのレシピ:第348話
※ 私は喫煙している医師に対してなんらネガティブな印象を持っておりません。私も過去は愛煙家でした。本稿では、「否認」という症状を説明するために、合法である喫煙を例にあげてみました。
依存症の治療は言葉にするのが難しく、またこれといった教科書などもありません。当事者やその家族はもちろんのこと、治療者すらも困っているのが現実です。このブログはそんな方々に向けて「少しでも力になれれば」といった思いから、日々の臨床での知見や気づきを書いています
痴漢の「ムラムラしたから」は本当なのか ?
本日は「痴漢」について話してみたいと思います。
「痴漢はなぜ痴漢をするのか」と聞かれたなら、あなたは何と答えるでしょうか?
世間的には「痴漢を行う人は性欲が強い」と思われている傾向にあるようですが、これまで数百名以上の患者を治療してきた私に言わせればそれは誤りだと言えます。
なぜなら痴漢を繰り返している人は、射精を主たる目的としていないからです。
また、痴漢行為をしてきた人にその理由を尋ねると、「ムラムラしたから」と答える場合が多いのですが、
そうした際に「では、あなたは対象者(被害者)の顔を見て痴漢をしてきたのですか」と尋ねると、多くの方が「背後から触っていたため、相手の顔は見ていません」と答えるのです。
「対象者の顔も見ておらず、射精が主たる目的ではない」
こうした事実から「痴漢と性欲は無関係である」と言えるのです。(そもそも性欲が過剰な人は「触るだけ」で満足できるはずがないのです。)
では、痴漢の目的は何なのかというと、答えは「できるかもしれない」「成功するかもしれない」といったものに挑戦するギャンブル行為なのです。
私の外来には、毎日のように痴漢や盗撮、覗きや露出といった性依存症の患者さんが新規に受診され、そのほとんどが「何度も捕まり示談で解決してきた」、「刑務所に数回入ったことがある」といったケースです。
そこで私が「風俗でお金を払って欲求を満たしたらいかがですか」と尋ねると、誰もが「試したのですが、なんか違いました」と答えます。(まあ、風俗では満たせないがために犯行と逮捕を繰り返しているわけです。)
またその一方で「では、そんなに自分を抑えられないのであれば、ガラガラの電車内でも痴漢をしていたのですか」と尋ねると、やはり誰もが「ガラガラの車内でしたことは一回もありません」ときっぱり答えるのです。
つまり彼らは、絶対に成功する風俗や絶対に失敗するガラガラの電車では痴漢をしたいともやりたいとも思わない、
あくまでも「できるかもしれない」と感じられる満員電車でのみ痴漢行為を繰り返している、行為依存症の患者なのです。
プラセボのレシピ:第347話
※ 複数で犯行に及ぶケースや射精を主たる目的としたケースは「反社会性人格障害」であり、本稿で解説している「性依存症」とは全く異なる疾患(病態)です。
依存症の治療は言葉にするのが難しく、またこれといった教科書などもありません。当事者やその家族はもちろんのこと、治療者すらも困っているのが現実です。このブログはそんな方々に向けて「少しでも力になれれば」といった思いから、日々の臨床での知見や気づきを書いています
ギャンブル依存症という病は本当にあるのか ?
前回、依存症という病気は、
・物質依存症(覚せい剤、大麻、アルコール、など)
・行為依存症(ギャッブル、窃盗癖、痴漢、など)
・人間関係依存症(DV、繰り返す不倫、など)
の三種類からなることを説明しましたが、本日は 「ギャンブル依存症」について説明してみます。
私達は、
・ビンゴゲームや合格発表のような「自分が当選するかも」といった場面
・バーゲンや昆虫採集のような「レアなものを発見できるかも」といった場面
におかれると「ワクワク」や「ドキドキ」といった、ポジティブな感情を得ることができます。
そして、にわかには信じがたいことかもしれませんが、覚せい剤依存症の人が覚せい剤という「特定の物質」に依存するように、
世の中にはこうした「ワクワク」や「ドキドキ」といった感情が得られる「特定の行為」に依存してしまう人がいるのです。
覚せい剤を摂取すると、人の脳内では「ドーパミン」と呼ばれる物質が分泌され「快」というポジティブな感情がもたらされるのですが、
この「ワクワク」や「ドキドキ」といった感情を体験している人の脳内でも、同じドーパミンが分泌されているからです。
代表的な行為依存症には「ギャンブル依存症」や「痴漢や盗撮などの性依存症」そして「窃盗癖」が挙げられますが、この病気になってしまうと人は生まれ持った知性や人格とは関係無しに、
・「分かっちゃいるけど、やめられない」
・「自己破産や逮捕をされても、時が経つと始めてしまう」
といった症状が出現し続けてしまうのです。
もちろん、中には「なんちゃって依存症」と私が呼んでいる、偽者のギャンブル依存症や性依存症もあり、
・不快な現実から目をそらすためにギャンブルに逃避をしている
・射精を目的とした性犯罪を繰り返しているケース
などがこれに当たります。
しかし、「借金がどんどんとかさんでいても競馬やパチスロをやめられない」といった方のほとんどは本物の行為依存症であり、仮に大金を手にしようともギャンブルから足を洗うことはできないのです。
ギャンブル依存症の人を指差して「あいつ意志が弱い」「ダメな奴だ」などと言う人は少なくありません。
しかし、「お金が欲しくて始めたギャンブル」によって借金がどんどんとかさんでいく状態にありながらも当該のギャンブル行為を継続している様は、「借金が恐怖となり得ない強靭な意志の持ち主」とも表現できるのです。
つまり、ここで私が言いたいことは「彼らは意思が弱いのではなく、行為依存症という病気である」ということなのです。
次回は、痴漢や盗撮の心理について書いてみたいと思います。
プラセボのレシピ:第346話
依存症の治療は言葉にするのが難しく、またこれといった教科書などもありません。当事者やその家族はもちろんのこと、治療者すらも困っているのが現実です。このブログはそんな方々に向けて「少しでも力になれれば」といった思いから、日々の臨床での知見や気づきを書いています。
依存症は、意志が弱くてだらしがない ?
依存症という病気は、
・物質依存症(覚せい剤、大麻、アルコール、など)
・行為依存症(ギャッブル、窃盗癖、痴漢、など)
・人間関係依存症(DV、ホストクラブ、など)
の三種類に分けることができます。
そして、これらの病気の治療を考えるにあたり、まずは以下の三つについて説明したいと思います。
①:世の中には「依存症」という病気が存在する
②:依存症は「意志の力」とは無関係である
③:依存症は「治らない」
① と ② について (アルコール、薬物を中心に)
前回の話の続きになりますが、「なぜ世界中の国々が覚せい剤を違法としているのか」の答えは、「依存症という、やめられることができなくなる病気になってしまう人がいるから」でした。
アルコール依存症も同様で、この病気が理解されにくい最大の原因は「全員がなるわけではない」という点にあるのです。
しかし、何がしかの理由を抱えた人は徐々に飲酒量が増えていき、意志の力では飲酒量や時間、タイミングなどをセーブできない「アルコール依存症」という病気になってしまうのです。
何がしかの理由とは、「孤独や不安が強い」「相談相手が苦手」「頑張り屋さんのため一人で抱え込む」といった性格因子や、「産後に相談相手がいない母親」「人前での緊張が強いが、そういった場面が多い方」などといったケースをさします。
こうしてアルコール依存症になってしまうと、周囲からは「飲まないと約束したのに嘘をつく人」「お酒を飲んで出勤するなんて非常識」などと人格を否定されてしまうのです。
「気合や根性で我慢すればいい」なんてことを話される患者さんのご家族と会ったこともあります。
しかし、アルコール依存症の患者さんはお酒に対する病的な渇望感だけでなく、アルコールの血中濃度が下がるタイミングで身体的な離脱症状も出現しているのです。具体的には「ハンドルが握れないほど手が震える」「滝のような汗が出て止まらない」といった症状です。
こうなるともう仕事どころではありません。ただし自分でも「原因は分からないけど、飲めば止まる」ということは知っているため「仕事に行くためにお酒を飲む」という、誰からの理解も得られない行動をとってしまうのです。
加えて長期間のアルコール暴露は「飲酒時の理性や判断能力が大幅にダウンする」といった症状も引き起こします。
先日、某タレントが「飲酒運転でのひき逃げ事件」を起こしてし、多くの方が批判的なコメントをされていました。
しかし、赤信号で横断歩道に突っ込んでしまうような精神状態の方が、事故を起こした際に理性的な行動など取れようもないのです。
もちろん私はここで加害者の罪や行動を擁護したいのではありません。
そうではなく、アルコールを日常的に摂取することで誰もが依存症となり、加害者側に回るリスクがあることを知って頂きたいのです。
(意志が弱いから病気になるのでもありませんし、なったなら誰もが社会性が失われていくのです)
次回は、ギャンブル依存症について考えていきます。
プラセボのレシピ:第345話
依存症の治療は言葉にするのが難しく、またこれといった教科書などもありません。当事者やその家族はもちろん、治療者すらも困っているのが現実です。このブログはそんな方々に向けて「少しでも力になれれば」といった思いから、日々の臨床の気づきを書いています。
「やめられなくなった人」を叩く意味はどこにある ?
なぜ、世界中で「覚せい剤」は違法薬物に指定されているのかをご存知でしょうか。
「幻覚や妄想に支配され、社会的に問題となる事件を起こすから」と考えている方は少なくありません。
しかし、そうしたケースは極めて稀であり、覚せい剤の使用によって引き起こされる精神の変調は、
・「誰かにつけられている」「過去の行いに対して天罰が下る」といった妄想から不安に襲われ、自ら警察へ助けを求める、
・ 強い猜疑心にさらされ、周囲の人に暴言を吐いたり感情のコントロールが困難になる
といった程度である場合がほとんどです。
事実、有名人が逮捕された際にも「まさかあの人が」といったケースが多いですし、せいぜい「やっぱり、少し変だったよね」と周囲の人が漏らす程度であることは誰もが知るところです。
では、なぜ覚せい剤が国際的に禁じられているのかというと、
一つ目は、
継続的に使用することで大多数の人が依存症となり、
・薬物が目の前にあったなら、それを拒むことができない
・薬物が手に入るルートを知りえたなら、行動せずにはいられない
といった症状が一生涯続いてしまうリスクがあるからです。
二つ目は、
依存症の症状として食欲や性欲に加えて就労への意欲なども激減した結果、国家の破綻へと繋がる恐れがあるからです。
ちなみにお隣の国の中国ではアヘン戦争の教訓から「密輸に関与した人物は、国籍を問わず即死刑」といったかなりシビアな政策をひいています。
つまり、病気の症状として「覚せい剤の再使用が止まらない」依存症の患者さんに対して、
・ダメな人だ
・反省がみられない
・もう見捨てる
といった批判は論理的に矛盾しており、(繰り返しになりますが、再使用を拒めない体質になってしまうため、世界中で覚せい剤の使用を禁止しているのです)
そうした方に必要なのは、刑罰(制裁)ではなく医療(治療)なのです。では、その医療とは具体的にはどういったものなのか。
明日もこの続きを書いていきます。
プラセボのレシピ:第344話
タバコを吸っても、全員が「肺がん」になるわけではない?
例えば、オスネズミを10匹箱に入れ、餌と水、そして覚醒剤入の水を置いておくと、10匹全てが覚醒剤入の水だけを飲み続け衰弱死します。
しかし、今度はオス5匹とメス5匹、あとは遊具(ラットレースですね)なんかを入れておくと、8割のネズミが覚醒剤入りの水に興味を示さなくなり生き延びます。(異性と交われない、上手く遊具を使えないといったネズミだけが、覚せい剤に取り込まれてしまうのです。)
実は人間も同様で、覚醒剤の依存率はせいぜい2割と報告されており、この数字は僕の100名以上の臨床経験とも一致しています。
アルコールもこれと同様であり、大多数の人はお酒を飲んでもそう簡単には依存性にはならないし、なれないのです。しかし、日々の生活において「生きづらさ」を感じられている方は、飲酒の頻度や量が増大し依存性へと進行してしまうのです。
仕事がない、友人や恋人を作れない、孤独な経営者、そんな方達が、「お酒や違法薬物をやめたいけど、やめられない」と、連日のように僕の外来を受診されるのです。
さらに依存性という疾患には遺伝子が関与していることが分かっています。アメリカでは、遺伝子検査の結果説明の際に、「あなたはコカインなら大丈夫だけど、大麻は依存するから手を出すな」なんて会話もなされるそうです。
自分の話をしてみますと、僕は20代半ばで禁煙を成功し、その事に少なからず誇りを持っています。しかし、それも「自分の意志が強かった」のでなく、「ニコチンに依存し易い遺伝子を持っていなかった」だけなのかもしれないのです。
繰り返しになりますが、覚醒剤でも大麻でもそしてアルコールでも、「用いた所で多くの人は依存性にならないし、なれない」ために、なかなか社会での理解が得られないのです。
プラセボのレシピ:第343話
アディクションの反対語はコネクション
東京スポーツさんに、寄稿をしました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180913-00000051-tospoweb-ent
(記事に関して補足です)
薬物やアルコール関連で著名人が逮捕されすると、とたんに対象者へ人格攻撃を始める人がいます。
でも、ちょっと考えてみてほしいのです。
そもそも私達は「覚せい剤を打たない」ことや「飲酒運転をしない」ことに対して、我慢をしているのでしょうか ?
「法を犯すな」、もちろんそこに反論の余地はありません。なぜなら日本は法治国家だからです。
しかし、では覚せい剤が合法だったなら、私達は覚せい剤を使うのでしょうか ?
シンナーでもコカインでも、大切にしている家族や友人、仕事などがある人は、「使え」と命令されても断りますし、それを「誘惑」とも思わないのです。
飲酒運転に関しても同様です。これだけ罰則規定が強化された社会においては、飲酒後に「乗るメリット」よりも、「乗るデメリット」の方がはるかに大きいわけですから、冷静に物事を判断できる人であれば、「したい」とは微塵も思わないのです。
もちろん、だからといって事件を起こした当事者を擁護したいわけではありません。繰り返しになりますが、法治国家において「罪は罪」だからです。
しかし、彼らが罪を犯した背景にあるものは、汚れた人格でも利己的な性格でもなく、「依存症という病気の症状」なのです。
そして、その上で
「依存症という恐ろしい病気ににならないために違法薬物には手を出さない」
「毎日飲酒をすることで、アルコール依存性という病気になってしまう人が一定数いる」
ということを知って頂きたいのです。
プラセボのレシピ:第342話
否認こそが中核症状
東京スポーツさんに寄稿をしました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180428-00000002-tospoweb-ent
アルコール依存症 ②
人はアルコールを長年に渡って摂取すると、脳細胞がパンチドランカーのごとくダメージを受け、アルコールに関してのみ「飲まない」という行動を「病気の症状として」とれなくなってしまう。
そして、この脳細胞のダメージは不可逆性(回復することがない)であり、仮に一定期間の断酒をしたところで、再飲酒をしたならば症状はどんどん悪化していく。
ボクシングの世界に「落ちグセ」という用語があるのをご存知だろうか。
脳に物理的なダメージが蓄積したボクサーが、ある日のダウンを境に、ほんの些細な衝撃(相手からのパンチ)で、簡単に「落ちる(ダウンする)」ようになってしまう。
脳のCTやMRI検査をしても何も異常は検出されないし、日常生活でも特に不都合は生じない。
そこで選手やトレーナーは、試合はもちろん、実践形式の練習も控えて様子を見るのだが、しばらく期間を置いても、やはり同様の症状は出現してしまう。
「落ちグセ」が出た時点でその選手は引退を決意すべきなのだ。
その事実を隠したり、取り繕って試合を続けたなら、その先に待っているのはパンチドランカー(慢性外傷性脳症)だからである。
そうした状態で選手が試合に勝つことは難しく、またよしんばタイトルを奪取できたとしても、引退後に
頭痛、手足の震え、不眠、うつ、性格変化(易怒性など)、記憶障害、便や尿の失禁、……、
といった症状に、一生涯悩まされることになる。
私もこうした元ボクサーやK1選手を診察したことがあるが、本当に悲惨である。
とある論文によると、ボクサーであればプロ歴が15年を超えると、パンチドランカーとなるリスクが上昇するそうだ。
少し話がそれたが、実はアルコールによる脳の障害も、これと極めてよく似ているのである。
以下は、WHOが出しているアルコールが引き起こす精神疾患をまとめた表である。
ICD10コード
F10:アルコール使用<飲酒>による精神及び行動の障害
病名 | ICD10コード | ||
1 | アルコール中毒せん妄 | F100 | |
2 | 急性アルコール中毒 | F100 | |
3 | 宿酔 | F100 | |
4 | 単純酩酊 | F100 | |
5 | 病的酩酊 | F100 | |
6 | 複雑酩酊 | F100 | |
7 | アルコール乱用 | F101 | |
8 | アルコール依存症 | F102 | |
9 | アルコール離脱状態 | F103 | |
10 | アルコール離脱せん妄 | F104 | |
11 | アルコール幻覚症 | F105 | |
12 | アルコール性嫉妬 | F105 | |
13 | アルコール性精神病 | F105 | |
14 | アルコール性妄想 | F105 | |
15 | アルコール性コルサコフ症候群 | F106 | |
16 | アルコール性多発性神経炎性精神病 | F106 | |
17 | コルサコフ症候群 | F106 | |
18 | アルコール性フラッシュバック | F107 | |
19 | アルコール性残遺性感情障害 | F107 | |
20 | アルコール性持続性認知障害 | F107 | |
21 | アルコール性遅発性パーソナリティ障害 | F107 | |
22 | アルコール性遅発性精神病性障害 | F107 | |
23 | アルコール性認知症 | F107 | |
24 | アルコール性脳症候群 | F107 | |
25 | アルコール性躁病 | F107 | |
26 | うつ状態アルコール中毒 | F107 | |
27 | 慢性アルコール性脳症候群 | F107 |
突然、こんな表を見せられても「何のことやら」といった感じだとは思うが、アルコール依存症は8番目にコードされている。
そして、アルコール依存症の恐ろしい点は、その合併症にもある。
たとえば、
10番「離脱せん妄」は、酒が切れると「体中に虫が這いずり回る」といった幻視体験など
13番「精神病」は、「自分の悪口が聞こえる」といった幻聴など
14番「妄想」は、「自分が他人から狙われている」といった被害妄想など
23番「認知症」は、記憶障害であったり、新しいスキルが習得不能であったり、など
こうした症状が酩酊時や離脱時に出現して、アルコールを摂取している限り不可逆性に進行していく。
過去に上手くお酒と付き合えた人が、アルコール絡みで様々なトラブルを起こすようになってしまうのだ。
そして、仮に断酒を継続できたとしても、その後は残遺性障害と呼ばれる後遺症も待ち受けている。
19番「残遺性感情障害」は、重度のうつ症状に苦しむ(自殺のリスクも高い)など
21番「残遺性パーソナリティー障害」では、易怒性(すぐキレる)、自己中心的な性格、他罰的になる、など
これらによって、重度のうつ状態を余儀なくされたり、病状としての自己中心的な性格が災いし、周囲から孤立してしまうケースも多い。
アルコールが中高年の男性の自殺と大きく関係している理由はここにあるのだ。
なぜ「お酒は20歳になってから」なのか。
それはボクサーがプロになって15年が経過するとパンチドランカーになるリスクが上昇するのと同様で、
お酒を飲むのが遅ければ遅いほど、アルコールが脳に与えるダメージも少なくなり、依存症を患うリスクが下がるからである。
精神科医が最も治療困難な疾患の一つに、アルコール依存症がある。
この疾患は、一定期間、一定量の飲酒行動を継続すると、誰もがかかりうる。
そして、かかったが最後「分かっちゃいるけど、やめられない」という症状が一生涯続いてしまうのである。
③ へ続く。
プラセボのレシピ:第339話
アルコール依存症 ①
精神科医が最も治療困難な疾患の一つに、アルコール依存症がある。
この疾患は「物質依存症」とカテゴライズされており、一定期間、一定量の飲酒行動を継続すると、誰もがかかりうる。
そして、かかったが最後「分かっちゃいるけど、やめられない」という症状が一生涯続いてしまうのである。
この疾患は、端から見ると「意志が弱い人がなる」と思われがちだが、それは完全なる誤解と言える。意志はもちろん本人の人格や知性も無関係であり、だからこそ医師は疾患や病気と呼ぶのである。
物理的なダメージが脳に蓄積すると人がパンチドランカーに陥るのと同様に、アルコールのダメージが脳に蓄積すると人はアルコール依存症となってしまう。
「お酒さえ飲まなければ本当にいい人なのに」と周囲が話すような人であっても、アルコールに関してのみ「飲まない」という行動を「病気の症状として」とれなくなってしまうのである。
繰り返しになるが、アルコール依存症は疾患である。つまり、アルコール依存症の人に「ダメな人」とか「意志が弱い」と言うのは、高熱で寝込んでいる人に「さぼってないで、仕事に行け」というくらいナンセンスなのである。
では、そんな恐ろしい疾患に対して私達ができることは何かというと、答えは正しい知識を学び、自分でかかるのを予防することなのである。
② へ続く。
プラセボのレシピ:第338話
痴漢の病理と精神療法
きたる、2018年 6月 16日(土)に開催される
日本「性とこころ」関連問題学会第10回学術研究大会
http://jssm.or.jp/10thmeeting/
にて、教育講演を行います. (メトロポリタンホテル 東京都豊島区)
年間のべ約4000人以上の性依存症の治療を行っている臨床経験のもと、
・痴漢は後天的な病気であること。
・痴漢を行う人の主たる動機は「性欲」ではない。(射精を目的としていないため)
・痴漢は真面目な性格の人であればあるほど「発症」する確率が高い。
・痴漢は後天的に洗脳される病気であり、それは偶然によって起こる。
・患者は「痴漢行為の何が楽しいのか」「目的は何か」等を言語化できない。
・ 性欲が疾患の根本ではないため、ホルモン療法は無効である。
・痴漢は必ず逮捕をされる。(痴漢は行為依存症であり行動はエスカレートをするため)
こうした話を、できる限り専門用語を用いずに解説していきます。
また当日はその他にも
・『座間事件に見る若者の性とつながりとしてのSNS』渋井哲也 さん
・『現代の若者の性と生」宋美玄 先生
といった講演も行われます。ご興味のある方は是非ともご参加ください。
(早期割引があります。医療従事者でない方のご参加もお待ちしております)
性犯罪者は去勢の対象!?
「性犯罪者は去勢すべきだと思うのですが」
クリニックで「性依存症外来」をしていると、こうした意見を貰うことが少なくありません。
痴漢、盗撮、覗き(のぞき)、露出、下着の窃盗、……
僕は、日々こうした犯罪を繰り返してしまう人と向き合っているのですが、
実は、彼らの多くは、性欲でいうと「弱い」人が多いのです。
タイプミスではありません。
そう、彼らの性欲は「弱い」のです。
「理解不能だ」
そんな声が聞こえてきそうですが、
これは、たった一つの質問で納得ができると思います。
性欲が強い人が、電車内で女性に痴漢をした際に「触るだけ」で満足できると思いますか ?
絶食に近いダイエットをしたことがある人は皆知っているのですが、
食欲の極限状態である人が、料理を「一口だけ」で食べて自制することなど、
まず不可能なのです。
では、彼らの精神病理(心の病のしくみ)はなんなのか。
それは、また別の機会だ書いていきます。
プラセボのレシピ:第320話
依存症の正体とは
覚せい剤、コカイン、大麻、アルコール、……
こうした依存症の方をカウンセリングしていると、
そこにはとある共通点が見え隠れします。※1
それは、彼らの「我慢強い」という、性格です。
書き間違いではありません。
実は、彼らの多くはとても「我慢強い」人達なのです。
彼らは、日々の生活において理不尽な出来事が起きた際に、
・自分さえ我慢すればいい
・文句を言うのはあまり好きではない
こうした思いのもと、自分が耐えることで「問題をなかった」ことにします。
たしかに、社会で生きていくためには「耐えること」も必要です。
しかし、「耐えるだけのスキル」では、いつしか心は破綻してしまうのです。
そして、そのあまりにも辛い現実から逃避するため
「何でもいいから寄りかかりたい」
そんな思いのもと、依存物質に手が伸びるのです。
幸か不幸か、これらの物質は「心の痛み止め」として、強力な現実逃避作用を発揮します。
結果、ますます本人の「自分さえ我慢すれば」という信念は強固となり、使用される物質の量や頻度は増大し、依存症は完成するのです。
完成した依存症に自力であがえる人は、まずいないと思います。
ついにはストレスの有無に関わらず、彼らはその物質から肉体的にも精神的にも離れられなくなってしまうのです。※ 2
プラセボのレシピ:第317話
※1 特にこの傾向は、男性に多く見受けられます。
※2 身体依存や精神依存の度合いは、物質によって異なります。